第36章 満つ
「体調がよくねぇから休んでるって言ったら
睦月のヤツ、お見舞いに行くって言うんだ」
「お見舞い…?」
「な。同じ家の中にいる相手を見舞うなんて
面白いこと言うだろ?だから
休んでるんだから先に食えって言ったんだよ。
それでもお母さんが先だって引かねぇから
弥生が、冷める前にたべなさいって叱ったワケ」
「うんうん」
弥生のお姉さんぷりに
ワクワクし出した私を見て、
眉を下げる天元。
「なのに睦月、引かなくてなぁ…。
ごはんなんかよりお母さんだ!って。
そしたら弥生も、お母さんが作ったごはんを
『なんか』ってなんだって怒り出しちまって」
「あらー…」
何だか悲しい食卓にさせてしまった事を
申し訳なく思っていると、
「ほらな?悲しいか?」
天元は、それがわかっていたかのように
私に問う。
「うん。ちょっとだけ。
私がちゃんと元気だったら、
そんな事にはならなかったのに」
「そうだよな。
睦ならそう言うと思ってた。
だから、
お前らがいがみ合ってる原因が睦だって
あいつが知ったら悲しむだろうなぁって、
わざと言ってやったんだ」
……
「そしたら…?」
「2人とも黙り込んじまって。でもその後、
ごはんよりもお母さんが大事なんて当たり前だって
弥生は言ったし、お母さんのごはんが大事なんて
当然だって睦月は言ったのよ。
眉間にこう、…ぎゅーっとシワをよせてな。
で、そのまま静かにメシを戴いたってワケ」
「……そ、っか…」
密かに感動している私に、
「なぁ睦?
うかうか体調崩してなんか
いられねぇなぁ?」
天元は追い討ちをかけた。
「う…そ、そうだね…」
言葉を詰まらせる私を見て
「体調崩すなって言ってんじゃねぇぞ?」
慌てて訂正してくれる。
「そんなもん、
なりたくてなるワケじゃねぇんだから。
お前は愛されてるなぁって言ってんだ」
なぜか天元が嬉しそうに笑って
背中を何度もさすってくれた。
「うん…、そうだよね。
すっかり元気だから
もう心配しないでね…ありがと」
天元の気持ちが伝染したのか、
嬉しくなった私は
にこっと笑って彼を見上げた。