第36章 満つ
「充分ゆっくりさせてもらったもの」
「…また原因作っちまったしなぁ」
私の腰をそっとさすってくれる。
…いつもに比べたら、
優しいくらいのまぐわいだ。
それほど身体には響いていない…
なんて事は絶対に言わない。
なぜなら、…
だったらもっとしようと
言い出しかねないからだ。
「大丈夫…。ちゃんと出来るから」
「ん。俺も手伝う」
「ありがと…でも…」
「…なんだ、どっかおかしいか?」
サッと顔色を変える天元に、
過保護が過ぎると言ってやりたいくらいだ。
「違う。もう少し、ぎゅってしてたいな…」
「ぎゅ、て…」
そんなに、意外?
「うん。ぎゅー…」
私は両手を伸ばして
広い背中に両腕を回す。
「まだ早ぇし、いいか…」
未だ布団の中。
毛布よりもあたたかい腕に包まれて
この上ない幸せにどっぷり浸かった私は
眠ってしまわないように
「何かお話しして?」
意識を繋ぐ為のおねだり。
「オハナシ…?あぁじゃあ、」
ぷっと吹き出して、
天元は私を抱きしめ直す。
なんだろうと、彼を見上げると
「内緒の話をしてやろうか?」
「内緒?」
話しちゃったら内緒じゃない。
でも、天元は内緒にする気なんかないのだ。
そんな雰囲気がビシバシ伝わってくるもの。
「昨日の晩メシ、弥生が引き継いだろ?」
「うん…助かった」
「そうだな」
私の髪をひと撫でして
天元はふわりと笑った。
「あれ、全部弥生がやり切ってよぉ、
運ぶのもみんな1人でやってくれてな」
それは、…天元が私に
付き添ってくれていたから…?
ちょっと申し訳なくなって、
「ごめんね…」
つい謝ってしまったけれど
「いや、俺に謝られてもな…」
「……確かに」
謝るべきは弥生にだ。
「後で、労ってやってくれ。
謝罪じゃなく」
おでこにちゅっと口づけながら
天元は穏やかに言った。
「うん…」
ほんとだね…
間違えちゃう所だった。
「それで、いざ食べる時になって、
なんでお前がいないのかって
睦月が騒ぎ出して…」
「わぁ…すっごく目に浮かぶ…」
「だろ?」
その時を思い出しているのか、
天元はくくっと喉を鳴らした。