第36章 満つ
ぼやける程近く、
視界いっぱいに愛しい人を捉え、
ふわぁっと、むせ返るほどの
彼の甘い香りを吸い込んで
まるで媚薬でも盛られたかのように
骨の髄まで痺れていく。
陶酔し切っていた私だったが、
ズンっと最奥まで
突き入れられた瞬間、
「…っ…!」
息を凝らした彼が
そこで欲を放つ…
びくんと脈打つ振動が
私のナカを波立たせ、
それに合わせて私も
全身をびくりと跳ねさせた。
「…んっ…」
痙攣を収めてくれるかのように
ゆるく抱きしめてくれて、
優しく髪を撫でられると
さっきまでの激情は
暖かい毛布にでも包まれたみたいに落ち着いて行き
その代わりに恍惚として、
愛された余韻に浸ることが出来た。
長いこと、
そのまま抱き合った後、
はぁあ、っと大きなため息をついた天元が
ゆっくりと腰を引く。
気持ちは穏やかになったものの、
身体の熱はまだ燻っていたようで
ズルリと抜けて行く感触で
また火が点きそうになってしまう。
そんな自分を律し、隠して
唇を嚙みしめた。
きゅっと瞑った瞼に、
あたたかいものが触れて
ぱちりと目を開けると
「こら、可愛い反応してんなよ…」
穏やかで愛しい微笑みが
私をからかった。
「……」
「…睦?戻って、来られるか?」
ふわふわするよ…
その声が誰のもので、
大好きだということはわかるのに、
何を言っているのかまでは
いまいちよくわからない…。
「睦、…
終わった時のお前、最高に可愛いな。
おーい、俺が、わかる?」
ほっぺたに掌を充て
指先でとんとんとノックをする。
起きろ、って言われてるみたい…
「しょうがねぇなぁ…」
その割に、ひどく嬉しそうに笑い
天元は私の襦袢を直してくれた。
「…すき、」
「んぁ?…」
彼は作業の手を止めて
これでもかと目を見開く。
「天元だいすき」
「…また可愛いことを。
俺も大好きよ睦ちゃん」
行為の仕上げのような、
優しい口づけを交わして
「珍しく、寝ちまわねぇのな」
乱れた髪を手櫛で梳かしてくれた。
「だって…朝、でしょう?」
「ゆっくりしてもいいんだぜ?」
甘やかしは相変わらずだ。