第35章 満天の星の下
ルーフテラスに出て、
黒いワイヤーチェアに腰掛けた
俺の上に跨って座る睦は、
その可愛らしい顔からは
およそ想像もつかない手荒な行動に出た。
俺には何をしてもいい、もしくは、
何をしても痛がらねぇとでも思っているのか。
あらぬ方向に折れた首を元に戻しつつ
「愛し合った余韻に浸る気はねぇのかよ」
文句のひとつも言いたくなる。
「だって…星が見られるのは今だけでしょ?」
「俺より星かよ」
「そんなこと言ってないけど…。
だいたい流星群見ようって言ったのは
天元じゃない。それをこんな事して…
しかもこんな所で」
眉間にシワを寄せて
思い切り不満そうに俺を睨んだ。
「そうだな確かに。
でもしょうがねぇだろ。
愛してんだから…」
「…んー…でも…。
誘ってくれて嬉しかったんだ。
一緒に星、見たい」
甘えて抱きついて来られると
湧き上がる愛欲も収まってしまう。
そんなふうに素直にして欲しい事を言われたら
叶えてやらないワケにはいかないだろ…?
「そうか…。じゃ今はおとなしく見とくか」
「今はって…」
「いいだろ、ほら…また落ちた」
空を見上げて、星を指さすと
「えぇッどこ?」
睦は慌てて空を見上げる。
待たずしてすぐに次の星が流れて
それを見つけた睦が
嬉しそうに笑みを作った。
「すごい、
私こんなに流れ星見たの初めてだよ」
「嬉しいか」
「嬉しいよ、きれいだね」
なんて幸せそうな笑顔だろう。
たったこれだけで
こんなに幸せになれるなんて…。
それならもっともっと、
この手で幸せにしてやれると思うんだ。
「なぁ睦…」
「んー?」
空に目を向けたまま、
にこにこで返事をする睦。
「このまま…」
このまま、俺の嫁になれば?
そう言いかけて、少し悩む。
働く働かないの話になった時、
『何でよ、じゃあ私はなにすればいいの』
そう言った睦に、
俺はつい、
永久就職すればいい、
と言いかけた。
そう言ってしまうのは楽だが、
…こいつはどう思うだろう?
そう考えたら、迂闊な事は口にできなかった。