第35章 満天の星の下
身ぐるみ抱きしめられて
大きな身体にうずもれてしまった私は
「…これじゃ空が見えないよ」
嬉しいけれど、
空が見えずにつまらない。
でもやっぱり嬉しいしで、
強くは突っぱねられないし。
「空より俺を見てりゃいいだろー」
「またそんなこと言って…」
「なぁ俺ー」
ゆらりと、私ごと身体をゆらして
駄々っ子みたいな事を言う。
「えぇ…だって、悪いけど…
この星空は今だけでしょ?」
私の言葉を受けて
天元は大仰に目を見開いてみせた。
「お前じゃあなにか?
俺はいつでも見られるから放置ってか」
「もーそんなこと言ってないじゃない」
「いーや、言ってるね。
悲しいねぇまさか愛しい女に
こんな扱いを受ける日が来るなんて」
涙を拭う仕草までして
天元は悲壮ぶる。
「もう俺は寒い。身も心も寒い」
「何言ってるの……、」
「あっためろって言ってる…」
「私あったかい」
「……ヘェ。いいな」
「うん」
羽織の中で幸せを嚙みしめた。
ぎゅうっとしがみつく私を
同じように力を込めて抱きしめながら
崩れるように押し倒す…
「…っ、あれ…?」
頭を抱えるように両脇に突いた腕。
すっぽりと覆われる私の身体。
「…天元?あの、さっきので、
充分あったかいんだ、けど…」
「俺もあったまりてぇの」
するっとほっぺたを擦り寄せて、
顔の横にあった腕が
私と縁側の床との隙間に滑り込んだ。
その分、
こちらからも身体を寄せる形になって…
ぴったりと隙間を埋めると
ホッとしつつも、少し緊張する…。
「じゃあ部屋にいこ…?」
「お前空見てぇんだろ」
本当に暖を取るように
すりすりとほっぺたを合わせてくる天元は
言葉通り、…
「もういいよ。ほんとに冷たいよ」
急に心配になって
星どころではなくなってしまった。
「こうしてりゃ、空も見えんだろ?」
有無を言わさずのしかかられて、
そうなると私はもう動けないわけで。
……確かに、
仰向けで横たわる私は
空を見上げる格好。
この星空を眺めるには何の問題もないけれど、
…そうじゃなくて。
こんな体制を強いられると、
「えぇと…星を見るどころじゃ
ないんですけど…」