第35章 満天の星の下
淋しくならないように、
広い背中にぎゅっとしがみつく。
「小さい頃ね、」
「あぁ」
「悲しいことがあるたびに、
本当の自分から逃げ出して
私の中の人間の部分が削られていくの」
「ん、」
強く抱き返してくれる腕が、
私の唯一の平穏な世界。
ここにいる時が、1番安全で
1番幸せだ。
「どんどん機械みたいになっていく私を
最初に救ってくれたのはおじちゃんとおばちゃん。
私を人間にしてくれた」
返事の代わりに
互いのおでこをこつんとぶつけてくる。
視線を感じてそちらを見ると
全部を見透かしているような瞳が
こちらに向けられていた。
「私はあの2人に感謝しかなかったよ。
でも天元が私と出逢ってくれて、恋してくれて
私の世界がまったく違うものになったんだ。
ものすごく幸せなんだよ」
「…そうか」
柔らかい声。
微笑んでいる時の。
「それで困ったことになったんだけど」
「困った…?」
目を見張る天元。
あ、勘違いしてるかも…?
「悪い事じゃないよ。でもね、
私が、天元なしでいられない」
「…全然困った事じゃねぇだろ。
なんてめでたいコトだ」
めでたいって…
当たり前のように言ってのける天元が可笑しい。
「私もう、ひとりで生きていけないよ?」
「睦を1人になんかしねぇもんよ」
「次に生まれてきた時も?」
「次生まれて…?…あぁ?」
突拍子もない事を言い出した私に
さすがの天元も困惑気味。
でも、ほんとにそんな事を考えてしまうのだ。
「私が、…天元も、…例えばお互いの事を
忘れちゃっててもね、ちゃんと、
また見つけてくれる?」
「…お前そんな事を考えてんの?」
「だってひとりぼっちなんかもうやだもん」
ばかみたいだと思うでしょ?
でも私にとっては切実な問題なんだ。
目の前のこの人がいなくなるんだと思うと
もう恐怖しかない。
肩を震わせた私を安心させるため
「1人になんかしねぇのー。
何がなんでも見つけ出してやるから
全力で俺を信じとけ」
少し離したおでこを
ごつんと強めにぶつけて来た。
「いっ…たい…!」
「挫いた足とどっちが痛ぇ」
「…おでこ」
天元が包帯で上手に固定してくれたから
動かさなければ足は痛まない。