第35章 満天の星の下
私がどんな形(なり)をしていても
それは私なんだと言ってもらったような気がした。
お互いに、
何を言っているのかはあやふやだ。
目の前の彼のことを言っているようで、
そうではないようにも思えて…
それはどうしてなのかって…
私はきっともう、わかってる。
★
私は部屋の中から、
ぼんやりと庭の景色を眺めていた。
青く茂った木々が
光暈を生じている。
今日は陽の光が強い。
空気はふわふわで、優しいのにな…
「睦、」
開け放っていた襖の影から
天元が顔を覗かせた。
「めーし。どうする?」
「あ…ッ!作るね」
もうそんな時間?
慌てて立ちあがろうとする私に
「こら」
小走りで駆け寄り座り直させた。
「作れって言ったんじゃねぇんだよ。
何食いたいかってことだ」
「えぇ…天元は何が食べたい?」
「……いや、俺が訊いてんだよ」
訊かれても…
「…どういう事?」
「あぁまどろっこしい女だなぁ。
俺が作ってやるから
何が食いてぇのか言ってみなって言ってんだよー」
天元は私のほっぺたを
こねくり回した。
「やえへやえへ…!…へ?ふうっへふえうほ?」
「…ぷっ。何だってぇ?」
自分でやったくせに、
私の喋りを楽しそうに笑う。
そんな顔を見せられたら
私もつられて笑ってしまう。
「やっへ、…ふふ…あはは!」
何を言っているのかまったくわからない
自分の言葉が可笑しくて、
本気出して笑ってしまう。
それを見た天元も、また優しく微笑んだ。
「なんて言った?」
そっと手を緩めて
よしよしとそこをさすってくれた。
「作ってくれるの?って…」
「あぁ、俺がやる。
無理に立つんじゃねぇぞ。
…もう痛みはねぇか?」
ふわりと抱き寄せられ
優しく尋ねられる。
——痛み…?
あぁ…
「うん…ない。ありがと」
「ん…ならいい。なぁ、」
広い胸に、
自分から身を寄せた。
いつまでこうしていられるかなぁ…
「ずっと、こうしてような…」
「…え…」
まるで、私の心に寄り添ったようなひと言だった。