第35章 満天の星の下
何事だろうと、
こちらも身を硬くするけれど、
伸びてきた手が
私の頭をぽんぽんしてくれたせいで
イヤな話ではない事を悟った。
「ここにいるのが、当たり前になればいい」
ぽつりと、でもはっきりそう言った。
「えぇ…?」
「ここにいるために、
何かをするっていうなら、それは違うぞ。
お前がここにいるのは、
俺がいてほしいからだ。
この先、睦がしていいのは、
自分がしたい事だけだ。
だから、この家に
住まわせてもらってるからって理由で
何かをするのは違うんだ」
……あれ、何だろ。
そんな台詞、前にも言われた気がする。
このごろこんな感覚ばっかりだ。
夢見心地になってもいいような
底の見えない甘やかしを受けたのに、
現実が、どこか私の頭を支配する。
「そんなの、…無理だよ」
「無理じゃねぇよ。
何してもいいが、それは睦が
やりたいと思った事だけ。簡単だろ?
ただなぁ、お前がしちゃいけねぇ事が
たったひとつだけある」
いたずらっぽい笑み。
それを見て、あぁまた、いつものやつだと思った。
思ったのに、答えを導き出せなかった。
「…なぁに?」
そう訊くしかなかった自分が悔しくて、
軽く天元を睨んでしまう。
照れ隠しもあったと思う。
だって絶対、恥ずかしいこと言うもん…。
「俺から、離れる事」
……、ほら、。
「だから…よくそんな事が言えるね」
「言えるわ。本心だぞ」
余計にだし。
「普通本心を、そんなにぽんぽん言えないよ」
「なら俺、普通じゃなくていい」
……
「天元は、全然変わらないんだね…」
「んー?」
「真っ直ぐで、直球で、なのに優しくて」
「……睦?」
天元が不思議そうなのも当然だ。
私は今、何を言ったのだろう。
何の事を、言ったのだろう…
そう思うけれど
私の口は止まらなかった。
「私が私じゃなくても、愛してくれてた?」
ヘンな事を訊いたに違いない。
それなのに天元は、まったく気にしない様子で、
「睦は睦でしかねぇ。
だから愛したんだ」
「…私じゃ、なくても?」
「違う、睦なんだよ」