第35章 満天の星の下
そう、私たちは
2人で『縁側』なんかにいた事はない。
私はずっとボロアパートだったし…
だいたいあそこでは
天元と過ごした事はなかったわけで、
ついでにここはマンションのペントハウス…
縁側なんて和風な作りはしていない。
…じゃあ、天元はどこの事を言っているのだろう?
ちなみに、私にそんな記憶はない。
そうなると、疑うべきはただひとつ…
「……私じゃない誰かなんじゃない?」
無意識に、声が低くなる。
一気に心が荒(すさ)んで行く。
しかし、
「違う!」
即座に否定された。
でも
「どうだろうなぁ…」
私の疑いは晴れなかった。
女の子から人気があるに違いない容貌。
ちょっと遊び人ふうで冗談も通じて、
面倒見もよくて…
モテないわけがない。
それくらい容易に想像がつく。
故に…記憶違いだって
あり得ると思うのだ。
…めっちゃ気に食わないけど。
「絶対ぇに睦だった!
あん時も、目ぇ瞑ったまま
縁側にいる俺のとこまで辿り着けたら
この先ずっと幸せでいられるっ、て…」
自分で言いながら
どこか疑問を抱いたようで、
私の顔を凝視めながら
言葉の勢いを無くしていく。
「あれ、…あそこ、どこだったんだ…?
睦、着物着てなかったか…」
独り言のように呟く天元。
あれ…?
着物…私もそんなの知ってたよね。
ちょこちょこ、おかしな記憶が残る私たち。
「また…?」
「またって…。あぁ、睦も、
そんなこと言ってたっけ。
じゃあ、理解できるだろ」
私が他の女の子との思い違いだと
疑っていた事を言っているのだろう。
その記憶は、間違いなく私だと。
あるわけのない記憶…
あれを思い出すと
とっても幸せな気持ちになる。
「……うん、」
「…全然納得してねぇじゃん」
「そんなことないよ」
「そうかよ。…で、ほんと痛ぇとこねぇのか」
「…うん、今のところは」
「…捻挫したんだよ」
「えぇ…?」
「捻挫。縁側から落っこちて、」
…ものすごく、リアルというか、
具体的だな。
黙っている私を見て、
「…絶対にお前だから!」
余計な心配をする。