第35章 満天の星の下
辛抱強く私を待って、
天元はにっこりと笑ってくれた。
「目ぇ閉じて。やり直せって、ほら」
大きな掌が、
私の目を塞いで閉じさせる。
それにおとなしく従って目を閉じた私は
目の前にある広い胸に
どんっと体当たり。
しゃがんでいるだけのくせに、
びくともしない大柄な天元は
「やったね、大成功。これで誕生日は来るし
しかも睦はもう俺のものだな」
全身で私を抱きしめてくれる。
「更に…これで俺は、お前のものだ」
厚い胸板にうずもれながら、
彼の顔を見上げることすら許されず
その言葉を耳にした私は
ただただ呆然としていた。
天元の声に嘘はなく、
おふざけでも無さそうだ。
だって、こんな私のものになってくれるなんて…
予想もしなかったことで。
私を自分のものにしようとする人はいた。
だけど、その誰ひとりとして
私のものになってくれようとする人はいなかった。
だから、
すぐには信じられなかったんだ。
そうなってくれたらいいとは思っていた。
私はこの人がだいすきだし、
もう他なんてあり得ないから…。
「よかったな睦」
まるで他人事のように天元が笑う。
「…うれしい」
強い腕の中で
幸せに酔いしれていた。
こんな日がくるなんて。
「そうか、よかった…
それにしても睦」
ぎゅっと抱きしめられていて
相変わらず顔も上げられない私は
おとなしくそこに収まって
次の言葉を待っていた。
まさか、…
「あん時みてぇに
ケガがなくて良かったなぁ」
そんな事を言われるとも知らずに。
「……あの、時?って…いつ?」
思い当たる節がなく、
首をひねった。
訊かれた天元も
「さー、いつだったかなぁ?」
私のおでこに唇を押し当てて唸る。
「でもほら、縁側からおっこちたろ。
目ぇ瞑ったまま俺のとこまで来られたら
幸せんなれるって言って…」
「えぇ…?」
「まったく同じ事してるじゃねぇか。
ケガしなかったから良かったものの……」
言いながら、言葉尻が小さくなって行く。
天元も、気がついたのだろう…
「ねぇ、…縁側って…どこの?」