第35章 満天の星の下
天元に出会う前から
私はコレをやっていた。
もちろんこの家に来てからも
何度もやった。
でも、知られたのは初めて…
「試す?なにをよ」
「………怒らないでいてくれる?」
それが心配だ。
「怒る?…」
そのワードに、天元は眉をひそめる。
「…俺が怒るようなことなのか」
すでに怒り出しそうな声だけど、
「聞いてみねぇと何とも言えねぇだろ?」
自分でも思い直したのか
ひとつ深呼吸をした。
…落ち着こうとしているらしい。
そうだよね…
頭ごなしに叱りつける気がないことが
わかった私は、
ちゃんと話す事に決めた。
「小さい時からね、変なクセがあって…」
「クセ…」
「現実がうまくいかなかったからかな…。
『これができたら、私は幸せ』みたいな
空想をするの…」
言葉にしながら虚しくなっていく。
そんなワケがないってことを
知らしめられるようで…。
下を向いてしまった私の頭を
天元が何も言わずに撫でてくれる。
たったそれだけの事で
涙が出そうなほどホッとした。
黙った私に耐えかねて、
「…今もソレをしてたって事か?」
質問をひとつ。
「うん。してた」
「内容は…訊いてもいいか?」
ひどく気遣わしげに…
でも真剣な眼差しがひどく胸に刺さって
自然と素直になれた。
「キッチンから、あのソファまで、」
私は、さっきまで
天元が座っていたソファを指差す。
その指を辿って、彼はそちらに目をやった。
「目を瞑ったまま辿り着けたら、」
戻ってきた優しい瞳に
涙を堪えながら
それをひた隠して、
「ずっとそばにいられる」
何とか声を押し出した。
でも、失敗した。
辿り着けなかった。
だからって、本当に天元がいなくなるなんて
さすがに思わない。
こんなの気持ちの問題だ。
単なる精神安定剤。
しばらく何も言わずに
私の頭をただ撫でつづけていた天元は
唐突に、ふっと息を洩らして笑った。
「可愛い遊びしてんのな」
可愛い……?
「遊びみたいに見えるかもしれないけど
私は真面目なんだよ」
「あぁそうだろうな。だから可愛いんだよ」
やっぱりバカにされているみたいな気がして
私は少し項垂れた。