第35章 満天の星の下
そして私は、
いつもの願掛けをしようとしているのだ。
天元は何も気づいていない。
やるなら今だ。
そう思った私は、
ぎゅっと目を閉じて1歩踏み出した。
床はフラットだから躓かないし。
えぇと…カウンターが、あるでしょ…?
そこを越えたら、大きなテーブルがあって…
テーブル、もう越えたかな…?
その先は少しだけ間があって
…どのくらい?
7歩…8歩くらいかな。
普段の様子を思い浮かべながら
私はゆっくりと歩いた…けど、…。
「…っ‼︎」
ラグにも届かない、
少し冷えたフローリングの床。
躓かないと高を括っていた私は、
何かに引っかかって
びたん!
と、すっ転んだ。
私以上に驚い天元が、
何事かとこちらを振り向き
腰を浮かす。
「ばっ、かやろ、何してんだ⁉︎」
ソファの左斜め後方で
見事に床と仲良ししている私に
慌てて駆け寄ってくれた。
「こら、大丈夫かよ」
私の頭の側に膝をついて覗き込む。
……大失態だ。
「うん。大丈夫…」
差し出された手を取って体を起こし
そこにぺたんと座り直した。
あぁ…恥ずかしや。
「あ!デコ打ったな!
受け身も取れねぇのかよ…」
呆れたように言いながら立ち上がると
天元はキッチンの方へと歩いていった。
私はぼんやりと、その背中を見送る。
デコ……
言われてそこに手を充てる。
腫れてはいないけれど
確かに、ジンジンと痛む。
私は周りを見回した。
一体なにに躓いたのかと…
すると目に入ったのは私が置いた…
置きっぱなしにした抱き枕。
お昼寝をしたまんま…
片付けなかったから。
…自分のせいで、成功しなかったというわけだ。
がっくりと首を落とした所へ
手に小さなタオルを持った天元が戻って来た。
私の前にしゃがんで
「痛むか?病院行くか…」
そのタオルを私のおでこに押し当てた。
ほんのり、冷たい。
保冷剤が仕込まれているようだ。
「大丈夫!…ごめんなさい」
「頭だしな…」
忘れてた。
私を、すごく大切にしてくれるってこと…
「大丈夫だってば!」
「…」
強めに言った私を
訝しげに覗き込み、
「…ならいいけど」
なんとか納得してくれる。
「…で?」