第6章 回想2
もう1つは、15での結婚だ。
俺のそばに居ろと睦に言った以上、
外から嫁をもらうなどもってのほか。
どんだけ軽蔑されるか…。
でも、嫁たちの事も呆気なく解決した。
なら、俺がこそこそと
睦を遠巻きに見ている理由…って…何だ?
俺はあの頃、焦っていたんだと思う。
はっきり知らねぇが、
睦ももう、二十歳近いだろう。
そういう話しが来たっておかしくねぇ。
それでなくとも、あの器量。
こいつにホレる男の1人や2人、
現れたっておかしかねぇ。
出し抜かれんのだけは、ゴメンだった。
睦が、自分の店を持った事は知っていた。
ちょうど客のいねぇ時間帯を見計らって、
入店、したのはいいが。
どう持っていく?
『懐かしいな、オイ』なのか、
『初めまして』なのか。
でも、睦は、
俺の事なんてカケラも覚えちゃいねぇ。
なら、俺も、初めましてでいた方が、
こいつを焦らせずに済むんじゃねぇかと思った。
無理矢理でなく、
ゆっくり思い出してもらった方がいいと思った。
その過程で、
俺の事を想うようになってくれりゃ、万々歳。
と、思っていたのに。
待てど暮らせど、
睦は俺を思い出す素振りも見せねぇ。
あいつのすっとぼけっぷりは相当だ。
でも、
俺の事は猛スピードで愛してくれて…。
任務から戻って、あいつの元へ顔を出す度に
色を湛える瞳に、喜びを隠せなかった。
一度は諦めた睦が、
この俺に惚れた事が幸せでたまらなかった。
睦が、俺の事を『大切な人』だと
言い切ったあの瞬間、
俺はもう、死んでもいいとさえ思ったんだ。
こっちから想ってるだけじゃねぇ。
睦から、想ってもらえる。
そんな奇跡があった。
そんな時、
運のいいことに、睦があの空き家を見つけた。
俺からすりゃ、あの日の思い出だらけの場所。
記憶の曖昧な睦に、数々のヒントを与えた。
あの日と同じような台詞に行動、
そしてあの日を知っているという証拠を
思い切り植え付けた。
その場で思い出してもおかしくないくらい
易しいヒントだったのに、
すべてを見事に流してくれた睦。
もう、いいかとも思った。
思い出さなくても、
俺を愛してくれた事実だけで充分だと。