第35章 満天の星の下
「ふふ、ありがとう…
んー…胸の辺りがもやもやするんだ。
忘れちゃいけない何かを、…
思い出せなくて」
その顔を覗き込むと、
思ったよりも明るい表情でホッとした。
「そういうこと、ない?」
「俺?」
そう問われ、少し考える…。
「そう、だな…」
こいつのように、
そんな感覚に捉われることはない。
だって俺は、
目の前の事……睦と、
睦に関する事で手いっぱいだ。
「特にねぇかな…」
「………」
そう答える俺を
無言でじぃっと見上げて、
そのうち両手を伸ばし
すりすりと頬をさすり始めた。
「睦はよく言うよな。
デジャヴみたいなの」
「……」
「今の知ってる夢で見た!って…」
「……」
話しかけても、
…ていうか
俺は訊かれた事に答えてんだけど、
それに反応するでもなく
俺の鼻筋を指先で辿ったり
輪郭をなぞったり、
そんな事をただ繰り返している睦…
「…聞いてんの?」
ぷはっと笑ってしまった。
ここまでスルーされると
むしろおもしろい。
「あ…ごめんね、聞いてるよ」
ハッとして手を引っ込めた。
「別にやめなくてもいいけどな」
「あ…そう?」
許しを得て、再び伸びてくる小さな手。
…
「いいんだけどよ、…これ何してんだ?」
顔のあちこちに触れてくるのは
どういう事…?
「んー……見たことあるなぁと思って」
「……お前大丈夫か?」
「なぁんでよぉ」
ぎゅうぅっと眉を寄せて不服を洩らす。
「見たことあるって何だよ。
当たり前だろうが」
「んー…そうじゃなくて。
ほら、…見たことあるんだよ、この顔」
「何を言ってやがる。
知らなくてたまるか………」
ん…?
「俺じゃねぇ誰か、ってコトか?」
そうだとしたら穏やかじゃねぇな。
「いや、こんな綺麗な顔は
他では見たことない。…と思う」
なんとも頼りない回答だ。
「俺以外だったら、許さねぇけどー?」
ぎゅっと鼻をつまんでやると、
即座に俺の顔から手を離し、
「いたいいたいっ!
そんなこと言ってないでしょ!」
両手で俺の手首を掴み上げる。