第34章 反抗期
「違うよ。…僕は
お父さんみたいになりたいんだ」
「えぇ…?」
私は割と驚いたつもりでいたけれど、
それに輪をかけて驚いた人物がひとり。
声も出せずに私の隣に
ただ座っていた。
「お母さんの事を、いつも守ってるでしょ?
言葉にしなくても
ずぅっとお母さんのこと守ってるの。
お母さんだけじゃないよ?
お姉ちゃんの事も、僕の事だって
おんなじように守ってくれるの」
睦月はなぜか悲しそうに話を続ける。
「僕もちゃんとしたい。
大好きな人を守ってあげたいんだ。でも、
僕は身体も大きくないし力も弱い。
憧れはあるのに、思い通りにならなくて
イライラするの」
そのイライラが、
天元に向けていた冷たい態度?
「そっかぁ…」
それなら、
私が言う事はないような気がするよ。
ねぇ、天元…?
そう思って、彼に視線を投げると
それに気がついた天元が
ハッとして私を見つめ返した。
俺?と自分を指さす天元に
私は大きく頷いてみせた。
なんなら私は、席を外しますけど?
と、手振りで伝えると
ぶんぶんと、首を横に振り、
私の腕を捕まえた。
笑いを洩らしそうになって
必死に堪えた。
だってあの天元が、
自分の息子に翻弄されるなんて…
やっぱりちょっと、喜んじゃってるのかな。
憧れてるなんて、急に言われちゃあね。
にやにやと笑ってしまう私に、
コホンとひとつ、咳払いをしてから
「急に俺みたいになれると思うなよ」
天元は悩める仔羊に話し始めた。
「家族を守るのは、俺の役目だ。
それをお前に譲ったりしねぇよ?
お前は今、めいっぱい守られて、
自分が嫁をもらう時に守ってやればいい」
うんうん、それはいい話だ。
と、思ったけれど、
睦月はそうじゃなかったみたい。
「僕は長男でしょ?
その役目は、僕にもあるんじゃないの?」
「長男……だから、なんだ?」
「え…⁉︎」
「別に商売してるワケでもねぇし、
継がなきゃならねぇ稼業もねぇし、
特に残してぇ名前でもねぇし…
だって俺も睦も、
お前に『長男だから』なんて
言ったことねぇだろ?」
「…う、ん…ないけど…」
「何を勝手に背負おうとしてんだよ」