第34章 反抗期
「そうね…。ちょっとカマかけたのに
全然否定しなかったね…」
「ね、じゃねぇよ!どこのどいつよ」
「………」
「おい、知らねぇのに
行かせんじゃねぇだろうなぁ?」
「………」
「睦、」
そこまで言って、
違和感に気づく。
黙りこくった睦に、
俺は相手の事を知らないから
無言になったと思っていたが…
俺を見る目が段々と
怒りに似たものを含んでいくのを感じたのだ。
「……睦?」
…あ、やべぇ感じ。
なんだなんだ?
俺は隈なく思考を巡らせて
睦がうっすらと
瞳に涙を浮かべていく理由を探した。
俺がそれに思い当たるのが先か、
睦がそれを零すのが先か…
…いや、そんなカケみてぇな事
言ってる場合か!
「天元はぁ、」
「ほう、俺が⁉︎」
気ばかり焦り、
乱暴な訊き方になった。
だが睦はそんな事を構いもしねぇ。
「弥生の事も私の事も、信じてないの」
はっきりと喋れてる。
涙も零れていない!
まだ大丈夫…
「そうじゃねぇだろ!」
俺は自分にも睦にも
ツッコミを入れた。
「それに、」
「まだあんのか、」
でもまぁ、自ら曝してくれんのは
正直助かる。
俺の何のせいで
睦の機嫌を損ねたのか
実の所まったくわかっていなかったからだ。
「私以外の女に、やきもち焼かないで」
目を伏せ、
いじけたように睦は呟いた。
………はい?
言いながら、
後悔した。
自分は一体、何を言ってるんだろうって。
だって自分の娘相手に、
私以外の女に…なんて。
おかしいのかな私。
でもだって、すごく嫌だったんだもん。
相手が娘だって、女は女。
天元がそんなおかしな意味で
弥生を行かせたくないわけじゃない事なんか
私にだってわかってる。
だけど嫌だった。
すごくムッとした。
呆れられたっていい。
しょうがないんだ。
私以外の人に、そんな感情抱いたらいやなんだ。
こんな事を思ってしまう私は…
ちょっとおかしいのかな…?
その証拠に、
「…………は?」
天元も随分と呆けた表情をしている。