第34章 反抗期
「弥生に似合いそうな色だな。
試してみな?」
「うん!」
弥生は嬉しそうにして、
それを肩にふわりと掛けた。
暖かそうなのに、
透かし編みになっているため
重苦しく見えなくて、
しかも階調のおかげで
優しく柔らかい印象。
鮮やかな赤は元気な弥生にぴったりだ。
「さすが睦だな。
弥生によく似合ってる」
「本当?ほんとに似合ってる?」
「うん、この着物とも相性いいと思うんだ」
「え…それで、これを?」
「一緒に着られたら、ちょっといいでしょ?」
いたずらっぽく笑う睦。
「お母さんすごい!」
反抗期は吹っ飛んでいったかのような
弥生の笑顔。
この2人が仲良しだと、俺はただ嬉しい。
自然と上がる口角と気持ち。
俺は大いに満足だ。
それに水を差す、睦の不穏なひと言…
「可愛いよって言われちゃうねー」
………
途端に、弥生は火がついたように
顔を真っ赤にした。
……………
俺の知らない所で、
俺の知らない何かが動いてるな…
「そっそんなんじゃないから!」
「どんなんだ」
つい突っ込んでしまった俺に、
2人分の視線が注がれる…。
そのひとつが、にこっと…
いや、にやっと笑った……。
「気になってるぅ」
嬉しそうに言ったのは睦だ。
急に小悪魔じみた顔を覗かせる。
可愛いくせに恐ろしい女よ。
つぅか…そりゃ気にもなんだろ。
「違うったら!」
「いいのよいいのよ。
弥生だってもうお姉さんなんだから」
やけに嬉しそうな睦…。
「お母さん!」
やけに恥ずかしそうな弥生。
「あ、そうだ!私の髪飾り貸してあげる!
柘榴石のならその肩掛けにも合うし」
「いいの…⁉︎」
「いいよー?可愛く結ってあげるからね」
「やったぁ!」
俺は布団の中から
2人の楽しそうなやりとりを眺めやり、
喜びを感じると共に…
釈然としない状況にジリジリしていた。
このきゃぴきゃぴ感は…
女特有の…
どちらかというと睦とは縁遠い…
と思ってたのに、
こんな姿を見ていると
睦も、
こんな10代を過ごせたかもしれないのにと
思わずにはいられなかった。