第6章 回想2
「だって、
私を何もかもから守ってくれるんでしょ?
なのにその見返りがごはんを作るだけなんて…」
とても申し訳なさそうに言うこいつを見て
気がついた。
こいつは、俺に引け目を感じているんだ。
そう言う事か。
俺の役に対して
自分の役が軽すぎると思っているようだった。
俺もこんな面倒な事せずに
はっきりと言えばいいものを…。
そうしてしまったら、
こいつは逃げ出してしまうんじゃねぇか
という不安から
ただそばにいて欲しいと言えずにいた。
だってあんな、心のあったまるモンを
毎日食う事が出来たら…
この空虚な日々から抜け出せる。
こいつが隣で笑ってくれたら、
それだけで、いいのに。
「お前チビのくせに、頭固ぇんだな」
二つ返事で了承すると思ってたのに、
こいつは思ったよりも手強かった。
「俺が食いてぇからお前が作るだろ。
俺のしたいようにしてもらう代償だ。
そんだけの価値が、あのメシにはある」
そう言い切った。
すると、
「…じゃあ、そばにいる」
まだ、
納得しきっていないような言い方ながらも
ようやく了承した。
言った。
やっと。
本当になるかどうかなんてわからねぇが、
約束は取り付けた。
俺は、満足だ。
でもこいつは、律儀に
俺の手を取ると、小指を絡ませ、
指切りの歌を歌うのだった。
そんなんしなくたって、
この約束、違えたりしねぇよ。
お前こそ、忘れんなよ。
針、飲ませに行ってやるからな。
随分長い時間を一緒に過ごしてしまった。
少し冷えた頭は、戻らなくてはと考え始めた。
空き家の門の前で、その娘は俺を見上げた。
「木の上、乗れて嬉しかった。ありがとう」
にっこり微笑む、こいつの昔が気になった。
今でこそ笑っているが、
何かつらい事があったのは明白だった。
そういう気配には、敏感な方だ。
「メシの礼だから」
そう言って、つい、頭を撫でてやりそうになる。
…いや、何だソレ。
やめとけ、俺。
…この短時間で、
俺がこいつに惹かれているのも…明白だ。
俺の葛藤をよそに、
「お、睦ちゃん」
こちらに寄ってくる男がいた。
睦と呼ばれたその娘は、
どこかホッとしたような表情を浮かべて
「あれ?おじちゃん!」
返事をした。
…睦。睦。
俺は心の中で、その名前を繰り返す。