第6章 回想2
確かにうまかったけども、
おっさんの作るメシを毎日食ってて
何が楽しいんだよ。
「お前の作ったのじゃなきゃいやだ」
「…私の?」
「そう」
当たり前ぇだ。
するとそいつは、隠してはいるが、
嬉しそうににやけている。
良い、反応、だな。
「いいよ!」
元気に答えた。
了解を得て、俺は更に欲張った。
「じゃさっきのメシくらいうまいの作れるようになったら、お前俺のそばにいろよ?」
「…何で?」
「メシ食わしてもらう代わりに
俺がお前を守ってやる」
「…そうなの?
守るって…何から?」
何から、だと?
「何からもだ。悪いヤツからも、
悲しい事からも全部。何もかもから守ってやる」
それだけの価値はあると思うんだ。
でもこいつは、ひどく戸惑ったようだった。
「ごはんを、作ってあげるだけで…?」
あのメシを『命』とまで言ってのける割に、
それを軽視するような発言だ。
どうやらよっぽど自分に、自信がねぇみてぇだな…
「だって、命なんだろ?
俺に命を与えるんだぞお前は」
それはすげぇ事だと思う。
「私なんて、
そこまでしてもらえる人じゃない気がする…」
そして俯いた。
…そうか。
単に、能天気なヤツではないんだ。
こいつも何か、つらい事があって、
それを乗り越えて、今、なんだろう。
すると突然、
「…すっごく高いね」
まったく関係ない事を呟いた。
…今頃気づいたかよ。
「…あぁ。怖いか?」
「ううん、怖くない。楽しい」
「ヘェ…」
この高さを楽しめるってなかなかだな。
…そんな事よりだ。
「なぁ」
俺はどうしてか、
こいつにうんと言わせたくて、話しの先を急いだ。
「さっきの話、俺のそばにいるって言えよ」
そう続けると、
そいつは俺の胸の内を探るように見つめてくる。
すっとぼけているように見えて、
人を見抜くような深いその瞳は、怖いくらい純粋だ。
「何で、そんなに?」
「何でって…」
…その通りだ。
何でこんなに、こいつにこだわるんだろう。
自分でも、よくわからねぇ。
…
「別にお前に損はねぇだろ」
そう言って、
こいつも、自分の心もごまかした。
「…ないよ。ないから変なんだよ」
…
「変?」
変だろうか。