第34章 反抗期
でも、それを天元に言われるとツラい。
ニヤリと笑った顔が脳裏から離れない。
だってさっきのは明らかに、馬鹿にしてた。
お前はどうせ鈍いだろって
言われた気になった。
「はい、どうせ鈍いです。でも…」
「睦、」
「でも天元は、
そんな事で私をバカにしたりしないって思ってた」
なんて事ないよ、
天元にとってはどうって事ないよね。
自分が疎い事も鈍い事もわかってる。
でもその事実をありのままに
受け止めてくれていると思っていた。
涙が出そうになって、
私は自分が悔しいのだという事に気がついた。
「バカになんかしてねぇよ。
ただ、可愛いなって…」
「また可愛いなんて言葉でごまかすの?
便利な言葉ね『可愛い』って。
そう言っとけば、バカみたいに喜ぶもんね」
「何言ってんだ…思ってねぇよそんな事。
わかってるだろ?」
「わかりません。鈍いから」
「睦、お前なぁ…」
呆れたように呟いて、
どうしたものかと私を見下ろす。
「……もう休む」
「おい俺との約束は?」
「休む」
ぷいっとそっぽを向いて拒否する私を
振り向かせようと手を尽くす天元。
でももうそんな気分じゃない。
さっきまでの楽しい気持ちは消し飛んだ。
「わかった、」
冷たいそのひと言に
私の背筋も凍りつく…
自分は平気であたり散らしていたくせに
天元が怒ったかと思うと
途端に怖くなる…
謝ってしまいたくなる。
…身勝手にもほどがあるよね。
でも、思わず見上げた私が見たのは
ひどく優しい瞳だった。
あまりにも予想外で
私はただただ驚いてしまった。
だってさっきの声は、
あんなに冷たかったのに…
「やっとこっち向いた。
自分はすぐ怒るくせに、
俺が怒るのは怖ぇんだよな…?
睦の事なら何でも知りてぇから
見てるだけでわかっちまうんだよ。
バカにしたワケじゃなくて…
睦よりも睦の事わかってる自分が
無性に嬉しかっただけだ」
かろうじて、彼の膝の上。
でも1人分離れた距離を埋めようと
大きな手が私を引き寄せようとした。
咄嗟に拒んでしまって…後悔した。
イヤなわけではなくて、
単なる条件反射というか…