第34章 反抗期
「何の事だ?」
天元は私の髪の先を指に巻きつけながら問う。
「どうして私には、
天元の考えがわからないんだろ」
「んー?」
目尻に押し付けられたままだった唇が
ほっぺたに下りてきた。
くすぐったくて身をよじると
それに合わせて彼もついてくる。
「くすぐったいよ…。だって、
天元には、私の事なんでもわかっちゃうのに…」
「そりゃそうだろ。
俺がどんだけお前のこと愛してると思ってんの?」
「………」
「…睦?」
不思議そうな声を上げ
私から唇を離して見下ろした。
私は愛されているのだ。
それは、喜ぶべきところだ。
だけど、…
「…それじゃあ…
私が天元を愛してないみたいじゃない?」
あの言い方からは、そう感じざるを得ない…
さっきまでの甘い気持ちが
一気に引いていくのを感じた。
「え…んなワケねぇだろ」
何を言ってるんだとばかり
目を見開く天元…
「だって私を愛してるから私の事がわかるの?
ならわからない私は天元を愛してないの?」
何となく、胸がざわざわする。
この人にそう思われていたらどうしよう…。
一気に心に不安が広がって行った。
ツキンとした痛みすら感じる。
「私の愛が足りないってこと?」
「おい、違うって。何でそうなる。
お前はちょっと鈍いだけだろ」
そう言ってニヤリと笑った天元を見て
どくんと心臓がイヤな音を立てた。
「鈍い⁉︎私?」
天元はしまったと
自分のおでこに手を当てた。
「本気でそう思ってるんだ…私が鈍いって。
愛する人の気持ちもわからないような女って?」
「違うって。悪ィ、今のは俺に落ち度があった」
「いい」
ぷいっと顔を背け
私は天元の膝から降りようと身体を起こした。
ただ、
「待て!」
簡単には許されるはずもない。
「お前の愛を疑ったワケじゃねぇよ。
鈍いってのも……言葉が過ぎた。
悪かった、謝るから…」
両腕で抱きしめて
降りかけた私を阻止しようと必死になっている。
思ってもいない事は口から出ないだろうと思う。
もっと怒っている時なら別だけど
今この人は至って冷静なのだ。
ちゃんとわかってるよ、
自分が鈍いことくらい。