第34章 反抗期

よくない事を、いいと言われて、
どうしたものか頭を悩ませる。

私の愛する人は、私の理想を甘く否定した。

「あれは、俺のために出た言葉だろ？
あぁやって感情に任せたのは
俺の事を想ってるからだと思ったら
すっげぇ愛しいから…」

ほらほら、そうやってすぐ甘やかす。

「変わってほしくねぇんだけど」

「…私は
おばちゃんみたいなお母さんになりたいのよ」

「睦ならなれるだろ。
でも可愛いのが睦のいい所だから
そのままでも全然構わねぇんだけど
どーしてもなりてぇってんなら
俺は止めねぇ……
…けどやっぱそのままでいいんじゃね？」

…ものすごい葛藤が見て取れた。
私の事を尊重してくれているのと
自分のそうあってもらいたいという希望が
ひしめき合っている様子…。
だから、

「私が目指す所はおばちゃんだけど、
…そうなりきれなかったら、
それで許してくれるんだよね…？」

私は、そう都合のいいように捉える事にした。
それでも、

「全然構わねぇよ。
むしろそうあってもらいてぇくらいだからな」

サラッと言ってのける天元はすごい。

「そうやって逃げ道つくるのは、
よくない気がするんだけど…
それも許してくれるの？」

すぐそこにある彼の首元に
おでこを擦り寄せてみる。

「俺がお前を許さねぇと思うかよ」

「うん…言ってもらいたかったの」

「あぁ…そうだと思った」

ぽんぽんと流れるように
調子良く飛び出す軽口が心地いい。

「バレちゃったー」

「あーあ、わかりやすいからなー睦は」

「そうかなー…こんなに神秘的なのに？」

「ぷ…お前どの口が言うの？」

私のおでこにほっぺたを擦り寄せ
全身で私を小突く。
ほんの冗談を
こんなふうに言い合えるのって幸せだなぁと思う。

「えー…？」

「この、可愛いお口？」

角度をつけて、甘く口唇が合わせられた。
同時にきゅっと肩を引き寄せられて
全身がその温もりに包まれる。

「…ほら
そうやってわかりやすいとこ、
大好きだ」

「どこがわかりやすい？」

この角度だと、
長い前髪が私のほっぺたに流れてくすぐったい。