第34章 反抗期
「睦ー?おーい、」
さっきから
こうやって何度呼ばれただろう…
自己嫌悪に陥って
まともな返事ができない私に
天元はなんとかしてやろうと
声を掛け続けてくれていた。
晩ご飯の前に
あんなおかしな空気にしてしまった私。
たったひと言が命取り。
口は災いの元、とはよく言ったものだ…。
いや、災い、なんかじゃないんだろうけど…
それでも子どもたちの前で
あんな事を言う必要はなかったと思う…
あの時の睦月の顔…一生忘れられないだろうな…
わざと平気なフリをして
普段通り振る舞って
子どもたちも何とか
いつものように戻ってくれたけれど
気を遣っていたのは明らかで…
私は終始、いたたまれない気分だった。
「そんなに落ち込む事あるか?
喜んでる俺が間違ってる気分になるぞ」
…この人は勘違いをしているのだ。
「…言った内容もだけど、
そうじゃなくて…」
「んー?」
私がやっと口をきいたからか、
少しだけホッとしたような天元が
背中に張りついて寄り添ってくれる。
「あんな…」
「んー…」
「感情的になって…」
「……それで落ち込んでんの?」
「だって、可愛い子に向かって
あんなこと言うなんて…」
背中を丸めて項垂れた私の
背筋を伸ばさせるように後ろに
引っ張り込まれた。
「……びっくりしてたな、2人とも」
くくっと喉を鳴らして
天元はあの時の事を思い出しているようだった。
…思い出さないでもらいたい。
「あぁあもう…」
両手で顔を覆うと
「そんなにだめな行動だったか?」
「私は冷静でなくちゃいけないのよ。
だっておばちゃんの感情的になった所なんか
見た事ある?」
「……はぁ」
天元は気の抜けたような返事をする。
「もしかして志乃さんのマネしてんの?」
「マネじゃなくて、お手本にしてるの。
自分がおばちゃんみたいになれるなんて
思ってないよ。だけど、
あんなふうになれたらいいなぁって思うんだ」
だからだめなのよ。
感情をぶちまけたりしたら。
「俺は…そのままがいい」
天元はぽつりと言った。
思わぬひと言に、私は振り返る。
「俺は、睦はそのままがいい」