第34章 反抗期
「睦月に言われなくたってもう言わないよ。
あんな怒鳴られるのゴメンだもん。
私だってバカじゃないし」
テーブルに両肘をついて
弥生は後悔なのか反省なのか
ぐったりと項垂れている。
なにがあったのか
気になって仕方のない私は
そろそろ2人から事情を聞き出したい所なのだけど…
疲れ切っている様子の2人から
それを今このタイミングで訊くのも
何だか可哀想…?
その葛藤が伝わったのか、
ちょっと顔を上げた弥生が
「…出来なかった事を責めるんじゃなくて
出来るように手伝えって」
見兼ねたように答えてくれた。
「…出来なかった事……」
答えてくれたものの…
なんにもわからない。
あぁ、
シミ抜きの話かな…?
忙しくて、やりきれなかったから?
でもその事を天元は知らないはずなのに。
「私はお母さんにちゃんと愛されてるって…。
だから、そんな事さ、
私だってわかってるんだって…」
申し訳なさそうに目を伏せる弥生。
……うまく、言えないんだよね。
その気持ちは、ちょっとわかる気がするよ。
心とは裏腹よね。
「…ごめんなさい」
弥生の言ったひと言。
たったのそれだけで
今までの暗雲垂れ込めたような気持ちが
いっぺんに晴れていくような気がした。
私には思い切りあたり散らすくせに、
天元には気を遣ってそうしない弥生が
なんだか愛しくて
私は弥生をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫だよ。…どうにもならないんだよね」
「…私だってお母さんに、優しくしたいんだよ」
弥生の涙声が、
小さい時に戻ったみたいに聞こえる。
抱きしめる身体はこんなに大きくなったのに
中身は思ったほど変わっていないのかな…
しっかり者なのに甘えん坊なお姉ちゃん。
「わかってる」
優しい弥生のことだもん。
私にぞんざいな態度を取ってしまう事を
1番悩んでいたに違いない。
まだまだ小さな背中を
景気づけにぽんと叩き
「さ、ごはん食べよ!元気が出るよ!」
弥生と、睦月に顔を向けた。
「「うん!」」
2人がにっこり笑ってくれて
部屋の空気がぱっと明るくなった。
私もやっと、ひと安心した所で、
「じゃあお父さんを…」
発したそのひと言は、
一刀両断のもと、
見事に否定された。
それは別問題だと言わんばかりに…。