第34章 反抗期
弥生が睦なら
こいつは俺。
歳を増すごとに似て来やがる。
ガキの頃の俺みてぇなツラしやがって…。
鏡か。鏡が置いてあんのか。
悔しいが睦が可愛がるのも頷ける。
……いや、自画自賛か?
いやいやちょっと違うな…
「あれ、お父さん。早いね」
いつもは呼ばれなければ来ねぇ俺が
すでにそこにいた事に驚く睦月。
顔が似てるって事は骨格も似てるって事で
そのせいで声まで似てんだが、
そうすると俺に勝ち目ってあんのかな…
睦に可愛がられている睦月の姿を思い出し
くだらない事を考える。
「あぁ…たまにはな」
「ふぅん…」
大して興味も無さそうに
睦月はテーブルを拭き始める。
ほんのガキの頃から
テーブルを拭くのは何故か睦月の仕事だった。
大きくなってもちゃんと続けているのは
見上げたモンだ。
「あ、なぁ睦月、」
そうだ、
こいつに訊いてみりゃいいんだ。
「なに?」
隅から隅まで、
きっちりとふきんを走らせている睦月は
こちらをチラとも見ずに返事をする。
「あのよ、弥生なんだけどな」
「姉ちゃん?」
弥生の名を出すと
一気に興味を惹かれたかのように
ぱっとこちらを見た。
おぉ、さすがキョウダイ。
姉のことは気になるか。
「最近よぉ、」
そう話しかけたちょうどその時、
「あー、もう…!」
襖が乱暴に開いて
同時にやけに不機嫌な声が飛び込んできた。
「見てよ睦月これ、ほうれん草だよ?
私が苦手なこと知ってて
お母さんわざと作るんだから」
「お母さんのほうれん草おいしいよ」
「あんたは好きだから…
あぁ、睦月が好きだから作るのか。
いいねあんたは可愛がられてさ」
弥生はがしゃんと音を立てて
持っていた盆をテーブルに置いた。
「…お姉ちゃん、」
睦月は俺がいることを
弥生に知らせるつもりなのだろう。
俺の方をチラチラ見ながら
姉に気づかせようとしている。
だが弥生は気付く事なく、
「あーもう…お母さんいやっ」
俺の逆鱗に触れるひと言を口にしてしまった…
「…弥生」
睦月が俯き、壁際へと一気に下がった。
俺の呼びかけに
弥生がハッと硬直する。
「おと、さん…⁉︎」
目が飛び出しそうなほど驚き
俺を凝視した。