第34章 反抗期
「こんなふうに甘えられるの久しぶりだから
可愛い睦を堪能したいんだよ」
お尻から抱えて、
本格的な『だっこ』をしてくれると
「早く解決すりゃいいと思ってるよ」
優しい声で慰めてくれる。
「うん…ありがと」
はぁっと大きなため息をつくと
さっきまでの落ち込んでいた気持ちも
一緒に空気に溶けてしまったような気がした。
「なぁ睦」
急に真面目な声になって
顔を上げるように促される。
何事かと、
もたれかかっていた身体を起こした所へ
軽く口唇を合わされた。
「今夜、俺んとこおいで…?」
甘い提案を受けたけれど
返事をする間も与えられず
深く口づけをされる。
俺んとこ、なんて言ったって、
どうせ寝室は同じ。
布団は2組。ただ、ほぼ建て前で。
必ず、お互いどちらかの布団にお邪魔して
眠るのだから、…俺んとこも何もないのだけれど。
でもあの言葉は間違いなく
『お誘い』の合図。
こつんとおでこがぶつかって、
口づけが途切れると
小さなため息と一緒に、
「…うん」
頷いて見せた。
すると
優しい瞳に色を浮かべて
「…待ち遠しいな」
なんて幸せそうに呟くから、
それは私の方かな、と
こっそり考えるのだった。
珍しく……というか
久しぶりに、ものすごい落ち込みっぷりを
見せていた睦。
何があったのかは知らねぇが、
弥生がらみなのは間違いなさそうだ。
だって、睦の部屋から出て行った弥生は
すっげぇ不機嫌そうだったから。
部屋に残された睦を窺えば、
泣きそうなほど元気をなくしているではないか。
いつもにこにこ元気な睦が
あんな顔をしてたんじゃ俺までおかしくなりそうだ。
ただなぁ…
睦が、話さねぇのを
俺が無理やり
弥生から聞き出すワケにも行かねぇし。
弥生も年頃、女同士いろいろあるのかねぇ…
居間の端、庭寄りに座り込んだ俺は
すでに真っ暗になった外の景色に目をやった。
そろそろ閉めねぇと
夜風はもう耐えられねぇ季節だ。
それでもぼんやりと庭を眺めていると、
晩メシの支度をしに、睦月が現れた。