第34章 反抗期
それに関しては、
言い訳もできないや。
弥生に言われていた、
お気に入りの着物のシミ抜き。
でも、畳んだ拍子に目に入った、
羽織の裂け目。
気になってしまって
ついそっちを優先してしまった。
お裁縫は得意だと驕っていたのが悪かったのか
思ったよりも時間がかかってしまい
シミ抜きまで手が回らなかった。
「お母さんは私の事なんかしたくないのよね!
私よりも睦月の方が可愛いもん」
「なんでそうなるの。
弥生も睦月もどっちも可愛いです。
今日中には終わらせるから…
ごめんね、許してね」
私が素直に謝ると
少しバツが悪そうに目を泳がせて、
「…っ!あ、明後日には着るから!」
それでも苛立たしそうに弥生は吐き捨てた。
「はいはい」
襖を乱暴に閉めて
弥生はやっぱりドスドスと去っていった。
はぁ…
これは私が悪かった…
にしても、ちょっと疲れちゃったな…
自分が嫌われてしまったみたいな気がしてくる…
違うってわかってるけど、
……
んー、今だけ今だけ。
「あいつ何?なんかあったのか…」
再び、襖がスッと開いた途端、
私を果てしなく癒やしてくれる
優しい声がした。
ぱっと顔を上げると
愛しい人が襖の隙間から
弥生の消えて行った廊下の奥へと
顔を向けて立っていた。
疲れや緊張、その他諸々が
一気に流れ落ちていくようだった。
「なぁ睦……あれ」
天元は驚いて
「……何だ何だ?」
ワケのわからないと言う顔で呟いた。
「どした?」
ぎゅうっと抱きついた私を
当たり前のように抱きしめてくれる。
心配そうに覗き込んでくるから、
「…なんでもない」
わかりやすいウソをついた。
「…あっそ」
まともに取り合わない天元。
「なに、あいつ難しいの?」
ふっと洩れた吐息が笑っている。
嘲りではなく、労りの。
常に変わる事ない天元の態度に
心からホッとする。
出逢った時から変わらない。
絶対の信頼をおけるのは
そのせいなんだな…
私も弥生に対してこうでなくちゃいけないんだ。
お手本がそばにいてくれるのって
いい勉強になるなぁ…
「ううん…私が悪い事しちゃっただけ」