第32章 ほころぶ
自分から花見なんかに連れてきておいて
こんな事を言うのもどうかと思うが、
こうして自分が昂って来ると
睦は俺だけを見てりゃいいと
そんな想いが心に灯る。
いつもの悪いクセ。
抜けない俺の病気。
睦がそばにいるだけで
世界が完結してしまう俺は
こいつにとっては弊害でしかないだろう…
そう思うのに
止まれる気がしない。
「睦…」
「ん…?」
「桜よりお前の方が綺麗に見える俺は
どうしたらいい…?」
「えぇ…?」
睦は明らかに戸惑いの色。
「もう『睦見』でもしてようか」
俺が表情を崩した事で少し安心したのか
「…ふふ、何を言い出すの。
桜は今だけだよ、」
うっとりと笑ってみせた。
「んー…じゃ俺は睦だけでいいって事だな」
「もったいないこと言ってないで
ちゃんとしようよ、お花見」
「あれ?俺だけなの、」
「何が」
「そっか、淋しいなぁ?」
「だから何が?なんで淋しいの」
わざと逸らした顔を、
キッと強い目をした睦に
両手で振り向かせられる。
おぉ、新鮮だなこの感じ。
俺はよくやるが、
睦にされるとは思っていなかった。
「…淋しくねぇよ」
「はい?」
「お前がこうやって構ってくれるなら」
「……よく言う」
睦は笑いながら
俺の頬をぐいと押しやった。
睦が笑えば
俺も自然と笑いが洩れる。
こうしてじゃれてる時間が
ひどく幸せで、
「何だよ、本気だぞ」
笑いが止まらない。
「はいはい、幸せよ私は」
同じように
くすくす笑いが止まらない睦を
羽織の奥まで誘い込み
足の先までくるんでやった。
「俺ずっとこうしてられるわ」
「ずっとしてくれるの…?」
してくれる、という言い回しに
少し胸が高鳴った。
こんなちょっとした事が嬉しいとか
自分こそガキみたいだなと可笑しくなってくる。