第32章 ほころぶ
羽織の内側、背中に手を回し
力を込めて抱きつかれると
もう愛しくて。
「…ねぇ」
「ん?」
「花、見ようかな…せっかくきれいだし」
「そう、だなぁ…でも俺
花より睦なんだけど」
「…人を団子みたいな言い方しないでよ」
花より団子。
…花より睦…
「いいんじゃね?お前食えるし」
「食…べ、ものじゃありません…」
恥ずかしそうに目を伏せられると
もっとそんな顔をさせたくなってくる。
「可愛いのは誰のためかねぇ…」
「…誰のためでもない。可愛くも、ない…」
困った女。
「じゃあ何でこんな可愛いのかな」
無防備な額に唇で触れた。
「自分こそ、無駄に色気振り撒かないで」
「…色気とか感じられるのかお前」
そんなもん、皆無かと思っていた。
最初の頃こそ、照れて慌てて
そりゃあ可愛い反応を見せていたのに
この頃は、どれだけ色仕掛けしたって
しれーっと立ち去る事さえある睦が。
「感じられるに決まってるじゃないの!
私がどれだけ必死に気づかないフリしてると、
おもっ、…てるの、かな…?……」
「……」
「…あーあ、…ねぇ?」
明らかに誤魔化しの目で見上げ
この場をどうにか収めようとしているが。
「あーあ、でも、ねぇ?…でもねぇよ。
どうしてくれんだお前!
よくもまぁ
俺の誘いを無かったことにしてくれたなぁ?」
「天元の誘惑にいちいち乗ってたら
体がいくつあっても足りないよ!
どれだけ我慢したと思ってるの、
褒めてもらいたいくらいよ」
……
「…我慢、した?」
「がまん、…ぁ」
慌てて口を塞ぐが…
「遅ぇよ」
「…よね」
睦は観念したのか、
真っ赤な顔をして
それでも目を逸らす。
「…そういうの含めて、可愛いの」
もう我慢し切れなくなった俺は
睦の頬をつかんだ。
「今までシカトされた分、取り返すけど」
優しく睨むと
くっと顎を引いて、
「…あの、ごめんなさい」
甘えたような声を出す。
「謝罪の言葉は受け付けません」
「え…っ」
「態度でどうぞ」
「うぇえ…?」
戸惑いのあまりおかしな声を上げる睦に
次はどんな悪戯を仕掛けようか
アレコレ思考を巡らせる俺だった。
☆彡