第32章 ほころぶ
守ってやりたくなるのは、こんな時。
絶対に謀(はか)っているだろうと疑いたくなる。
まぁ睦に限って、
そんな事はまずないだろうけど。
「俺と一緒なら、
幸せも怖くないと言え」
言いながら笑ってしまう俺。
何故かって、
そんな事を言わせようとしている自分が
何だか滑稽で。
でもだって、
「俺がいるのに、怖いわけねぇだろう?
俺が与える幸せだ。
安心して、もらってほしいんだ」
祈りを込めた言葉に、
睦がきゅっと笑顔を作った。
困った事に、どきりと心臓が跳ねる。
そんなふうに、素直に笑ったりとか…
なんて愛しいのか。
お前が笑うと、他はどうでもよくなるよ。
こうして見つめあっていれば、
すべてが繋がっていくような気がするから。
「俺は、幸せだ。
こうやって睦が俺を見ててくれて」
無意識にそんな言葉が口をついた。
……いよいよ病気かな。
いや、もともとそうだったが、
最近進行がひどい。
睦への愛が原因の病だから
別に構わないっちゃ構わないけども。
睦はいつも、
色メガネでもかかってるんじゃないのと
不信感たっぷりに言ってくるが、
そんなものなくたって
睦は絶対ぇに美しい。
照れて、可愛く頬を染めた睦は
「天元の、おかげだよ」
それでも嬉しそうに笑う。
俺の目に映ったその笑みはあまりにも美しくて…
この女が自分のものかと思うと
一瞬で我を忘れた。
そして
その笑顔に引き寄せられるように唇を奪っていた。
瞬間、
ザッと、強い風が
桜を見よと
俺を咎めるかのように吹きつけた。
おかげで桜の絨毯は舞い上がり
なんとも幻想的な風景。
「……落ちた桜が…」
強い風に身を竦め
俺から離れた睦が
そちらへと顔を向けた。
…風に、
桜に、
睦を取られた気分だ。
——ほらな、やっぱり病気は進行してる。
引き返せない程に…
睦の頬を覆うように手を添え、
ゆっくりとこちらを向かせた。
「…っ!」
薄く開いていた口唇に
噛みつくような口づけをしてやると
さっきとは違った意味で、
身を竦ませる睦。