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【鬼滅の刃】予定調和【宇髄天元】

第32章 ほころぶ





あの時を思い出すと、
この、胸の真ン中が疼くんだ。
背筋がむず痒いような、
初恋の痛みが心を貫くような。

「お前は幸せが怖いと言った」

そして、初めてお前から、
お前の意思で抱きしめてくれた。

「…そんな事まで覚えてるの?」

俺の心と、きっと睦も同じ。
切なさを紛らわせるように
両腕を俺に向ける睦のそれを絡め取り
小さな身体を抱き寄せた。
さっきは拒否された膝の上を
何の躊躇いもなく許してくれる。

全身を包んでやると
ほっとため息をついた。

「…冷えてる。悪ィ寒かったか?」

自分の羽織を巻きつけてやると

「あったかい」

にっこりと笑って見せる。

しまった事をした。
いつも軽装でいる事に慣れてしまって、
こいつのこの格好に特に違和感を抱かなかった。

春といえど夜は
冷えるに決まっているというのに。

「もっと早くに気づくべきだったな」

「ううん…いいの。
おかげですごくあったかいし、幸せ」

幸せ…

そのひと言を強調されたようで、
俺は睦の様子を窺ってみる。
…顔は見ずに。

「…今も、ちょっと怖い…」

申し訳なさそうな、
言いにくそうな…そんな言い方。

「怖いか…」

「でも…もっと、って思って…それも、」

「もっと…?もっと幸せが欲しいか?」

「…ごめんなさい、もっとなんて無いのにね」

それは、今が最高潮、ってイミか?
そうなんだとしたらお前は、…

「『もっと』なんかまだまだあるぞ。
ここで終わると思ってるなら
お前は間違ってる」

睦は顔を上げない。
でも、強張った身体のせいで
何を思うのか、どんな顔なのかがわかってしまう。

幸せが怖いなんて…

怖いのは俺の方だ。
お前が逃げ出してしまいそうで。

慣れない幸せに恐れをなして
逃げ出す事を恐れながらも、
俺の色に染めるために
どれだけの愛を埋め込んだか。

「俺と一緒なら怖くないと、」

…心の声を口に出すも、
続ける事をやめた俺を

思った通り、そろりと見上げる睦。

目が合うと、
思った以上に不安そうな目をしていて
言葉を途切れさせたのは
まったくの間違いだった事に気がついた。


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