第32章 ほころぶ
「どうして?お花を見ながらのお酒なんて
もってこいじゃないの?」
「いや、お前がいるからな」
「…私のせい?」
「せい、なんじゃなくて。
何かあった時、
睦を守れなかった理由にはしたくねぇのよ。
俺のけじめだ」
…だから、そういうのは
こっそりやってもらいたい。
なぜって頬が緩むから。
「うーわ、嬉しそう」
天元のいたずらは大成功。
私が嬉しいのを隠しきれなかった事で
彼の思惑にまんまとはまってしまったのだ。
あんな言葉、わざわざ言って聞かせたのは
私が喜ぶのを見越しての事だろう。
「喜ばされた」
「さすがは俺だな」
「えぇ?さすが私、だよ」
私が口をへの字に曲げると
「なんでだよ。俺だろ。
睦の事ならなんでもわかってる」
彼も同じように口をへの字にした。
「私だよ。天元のこと好きすぎて
すぐに嬉しくなっちゃうから」
「おぉ、またそんなコト言って
俺を夢中にさせんのな」
「自分こそわざとあんなコト聞かせて
喜ばせてくるくせに」
「お前こそ、ソレわざと言ってんな?
普段絶対ぇに言わねぇだろ」
「天元の真似してるだけだよ」
「いやいや、所詮マネはマネだろ。
俺様には遠く及ばねぇな。
睦の事、
お前が俺を想うよりもずっと愛してるから」
「そんな事ないよ、私だってもう
愛されてるばっかりじゃないからね」
「おーぉ言ったな?
じゃあどうしてくれるのか
具体的に答えてもらおうか」
私はちょっと…
いや、あまりにも浅はかだろうと思っていた。
自分が嫌になる。
どう考えても乗せられていただけなのに。
「…お腹すいちゃったっ」
「はははっ、バカやろ誤魔化すな」
楽しそうに声を上げて笑った。
もともと言葉遊びだ。
内容は本当でも、
この人にとってはちょっとしたお遊び程度。
だから天元は
本気出して聞き出そうとしていたわけじゃない。
この人のことだから、
私がそこまで語るとは思っていなかっただろう。
ただ私は、
本気で受け応えていたけれど。
だからこの人の噓ん気に救われた。
「天元はたまにお父さんみたいよね」
「はぁあ⁉︎それだけは
言っちゃダメなんじゃねぇかなぁ睦ちゃん!」