第32章 ほころぶ
天元の首元に擦り寄って、
「私の扱いが上手だね」
ぱちりと目を開ける。
「…そうだろうなぁ。
俺の生き甲斐だからな」
「生き甲斐って大袈裟な…」
自慢げに言う天元の首に片腕を回した。
そのまま目を前に向けると
月光を受けて薄紫色に染まったたくさんの桜。
「きれい…!」
「絶対ぇ気にいると思った。
咲いててよかった。…降りるぞ」
「え…っうん」
やっぱりちょっとだけ怖くって
彼の首に強くしがみつく。
そんな私を守るように
天元はそうっと地面に着地した。
「ほら、」
しゃがんで私を下ろそうとしてくれる。
……
「…ちょっとだけ…このままいてもい…?」
「…?…あぁ、もちろんいいが…もしかして、
怖かった、か?」
最初から怖いって言ってるじゃない…
でも、最善を尽くしてくれたこの人に
何の文句が言えるだろうか。
「ううん、…でもちょっと、足が…
立てそうもないかも…。
あ…重たいよね、下ろしてくれていいよ。
地面でも全然…」
構わないから、
と言う私の言葉を遮って
「睦ひとりくらい全然平気だ。
例えば無理してるとしてもだ、
地面に座らせるくらいならヤセ我慢するわ」
天元は腕の中に強く抱きこんでくれた。
「…ごめんな、やっぱ無茶だったか」
申し訳なさそうに眉下げる天元に、
こちらこそ申し訳なくなってきて
「あの時、歩けなくなったのは私だもん。
こうでもしてもらわなかったら
今夜のうちにここまで来られなかったと思う。
それに…抱っこしてもらって嬉しかったから」
気持ちを素直に伝えたのはいいが、
言ってるうちに
なんだか恥ずかしくなってきて
いつものように
彼の胸に顔をうずめていった…。
「…それなら、よかった」
いつもの揶揄いはなく、
穏やかに言ってのけた天元。
なんだかさっきから、心地良すぎる空気に
私はどんどん飲まれて行くようだ。
「天元…」
「なんだ?」
「ありがと」
「…運んだこと?」
「それもだけど…。もっと、いろいろ」
「んー…、何のことかわかんねぇが…
睦がいいならそれでいい」
私のおでこに唇を押し付ける。
ほら、なんだろうな。
すごく心地いいの。