第32章 ほころぶ
「…体調、悪い?」
私よりも早起きな彼が、
太陽がこんなに昇るまで
布団から出てこない理由なんて
それくらいしか思い当たらない。
私は布団に乗らないよう、
畳に膝をついて
天元の顔の辺りを覗き込んだ。
さっきまで覗いていた目も、今は布団の中。
「…大丈夫?」
腕を伸ばして、
背中と思われる場所をそっとさする。
すると、布団の中から
「んー…」
くぐもった返事が聞こえた。
あぁやっぱり。
お花見どころじゃない。
そう思った私が立ちあがろうとした瞬間、
ぱっと手を掴まれ勢いよく後ろに引かれた。
「うわ…!」
当然私は尻もちをつく。
何事かと振り向いた私の目に入ったのは
切なそうな瞳。
「睦…」
「なに?どっか苦しい?痛い?」
「苦しいし痛ぇ…」
「ほんとっ⁉︎どうしよう!どこ⁉︎」
「ここ」
そう言って天元は胸に手を当てた。
心の臓が悪いの!
「やだ、…ちょっと待って…」
私は布団の上から彼の胸元をさする。
…丸まっているから、多分腕だけど。
だめよ睦、落ち着かなきゃ。
「お医者様を…!」
再び立ちあがろうとした私は、
また引き戻されて…
「何してるの、遊んでる場合じゃないでしょ⁉︎」
「医者じゃ治せねぇ…」
「えぇ…?治せないほど重いの⁉︎」
「違う!」
突然、強めに言われて
少し違和感を覚えたのも束の間、
さっき引かれた腕にもっと力を込められ
私はあっという間に布団の中に
引き摺り込まれた。
「医者なんかいるか。
お前にしか治せねぇって言ってんの」
「……」
「睦…」
平気で口づけをしようとする天元の
その唇を両手でふさぐ。
「…なんだ、治せ」
眉を寄せた天元は
みるみる目を見開いていった。
なぜってそりゃあ…
「睦…悪ィ」
ため息混じりの謝罪。
「…元気なの?どっこも悪くないのね」
「ここが悪ィんだよ俺は…
お前が居なきゃすぐにこうなる」
「ばかな芝居はやめて…生きた気がしないわ…」
「悪かったから…」
「知らない。天元のばか…!」
本気で心配した自分がばかみたいで。
病気じゃなくてよかった安心感で。
私の目からいくつも流れる涙。