第32章 ほころぶ
「わかってる、」
だって、『咲いてる』って言ったもの。
この時季に『おべんと』持って行く
何かが『咲いてる』所なんてひとつしかない!
「そっか、バレたか」
わざとわからせようとしたのがありありとわかる。
それなのに
そんな言い方をするこの人は
完全に楽しんでいる。
「ほわーんとしてるだけだったのに
しっかりしてきたなー」
むー?
「とぼけてたってことー?」
「とんでもない」
白々しいほど目を開いて見せて
「あどけなかったって事だ」
まるで娘の成長を喜ぶ保護者のような顔をした。
…ほんとに大丈夫かな私。
「私、娘?」
「…お前が娘だったら、俺はもう狂うぞ」
呆れられた…
だって
「扱いが…」
「可愛いからだ」
「私はこれでもしっかりしてたのよ。
ひとりでお店やってたんだから。
こうなったのはねぇ、天元のせいだからね」
「おぉ、そりゃ大変だ。
責任取らなきゃなぁ?」
…食えない人だ。
「真面目に聞いてよ」
「大真面目」
小さな子がお人形にするみたいに
私の頭にほっぺたを擦り付けて
「ンな事より、明日行こう、晴れたら」
「明日?」
「まだ咲いてなくても泣くなよ?」
「また!泣かないよ」
どこまで子ども扱い⁉︎
「悪ィ悪ィ、言葉の綾だ。明日じゃ不満か?」
「ううん、随分急だなと思って」
準備のいい天元だから、
いつもならもっと前もって話してくれるはずなのに。
「そうだな…。でもお前、待ちきれねぇだろ?」
……これでは子ども扱いされても仕方ない、と
自分でも思ってしまった。
行きたい気持ちが、
そんなに簡単に溢れてしまっていたとは。
「…そう、かも」
「ちゃんと言っていいんだぞ?」
「え?…何の事?」
「何かしたかったり、
どっか行きたかったら俺に何でも言えよ」
「うん…?」
なぜ急に、そんな事を言うのかわからなかった。
どういう事なのか首をひねっていると、
「お前は何も言わねぇから、
俺も何もしねぇけど
今の話にこんだけ乗っかって来るって事は
やっぱどっか遊びに行きてぇんだろう?」
天元は解説でもするかのように
自分の気持ちを曝してくれる。
——そっか。
そういう事か…
私は真面目な目をする天元を
きゅっと見上げた。