第32章 ほころぶ
朝夕の冷え込みもすっかり和らいで
心地良い春の陽気。
そうなると、
俺は睦にしてやりたい事がひとつ。
ずっと前から目をつけていた。
きっとそろそろ綻び(ほころび)始める頃だ。
…
綻ぶ、と言えば、
気になるのは俺たちの関係。
いや、愛は健在。
相変わらず仲もいい。
睦の可愛さは増す一方だし、
それに伴って俺の愛も増していくばかり。
寝食を共にするようになって
心の向く方向も一緒…
とは言えだ。
刺激はない。
なんていうのか…
和みすぎ、というか、
馴染みすぎ…というか…
悪いワケでは決してない。
この当たり前な感じがひどく心地いい。
だからと言って
新しい事をしないというのも淋しくはないか?
ちょっとした刺激。
非日常の時間。
それだって、たまには必要だと思うのだ。
睦はあまりにも慎ましい。
よっぽど不満がない限り、
あぁしたいこうしたいと
言ってくることは無いに等しい。
それを言わせるには、
その為の時間を取り
膝突き合わせて話し合いをしなければならない。
…そんなまどろっこしいことをしなくてもだ。
俺から提案すればいいだけのこと。
今回の事に関しては、
俺が睦と行きたいわけだから。
今頃きっと夕食の仕込みでもしてるだろう…
晴れたら明日にでも行こう。
そう、誘ってみるとするか…。
「睦ー」
不意に声をかけられ振り向くと
台所の入り口に、大きな影。
随分とご機嫌さんな彼は
にこにこと私のもとへと歩み寄った。
こんな時、この人は決まって何かを提案する。
今度は何を思いついたのやら…。
「どうしたのー?」
呼びかけられたのと
同じような調子で返事をすると
優しげな笑みを深めて
「俺とイイとこいきませーんか?」
そこはかとない様子がもどかしい…
「んー…、どこでしょう⁇」
「おべんと作って」
「おべんと…?」
「2人で」
「2人で…」
……
にこにこしているのはいいけれど、
なぜ『どこ』と言わないのか…。
「なんでもったいぶってるの?」
「まぁな。まだ咲いてるかわかんねぇんだよ。
実はちょっと悩んでる」
「行く!」
「……んあ?」
「連れてって!」
「どこかわかってんのか?」