第30章 秋の思い出
「あのオヤジ、困ってたぞ。
せっかく好意でオマケをなんて言ってくれてんのに
嫌がらせかと思ったぜ」
「何で?そ、そんなに?」
「当たり前ぇだろ。あぁいう時は普通、
動物が妥当なんだよ」
「フツーなんて、知らないもん…」
ちょっといじける私に、
「……まぁな?」
天元は言いにくそうに頭を掻く。
「だからほら、金魚にしてもらったじゃない」
赤い鱗の可愛い金魚。
ちょうちんの灯にかざすと
きらきらしてきれいだ。
そういえばいつのまにか、
辺りは暗くなり、あちこちに提灯の灯り。
「それは俺が見繕ったんだろ」
天元が呆れるのも無理はないのかもしれない。
オマケにもうひとつ、
と言ってくれたおじさんに私が頼んだのは
『この人』
つまり天元だった。
私の注文で先に作ってくれたのは
片手を招くように持ち上げた三毛猫。
尻尾は長く、顔の横まで持ち上げていて
なんとも愛くるしい表情をしている。
これだけ猫を上手に作る人だ。
天元のことも
上手に飴細工にしてくれるかもしれないと
本気で思ってしまったのだ。
飴細工に関する『常識』なんて私は知らない。
「だいたい、俺のこと
あんだけ上手く作られてみろよ。
お前それを頭っから食うんだぜ?」
「……気持ち悪」
「お前ンな事よく言えるな!」
確かに。
食べる事なんて頭からすっかり抜け落ちていた。
……
「でも猫だってフツー食べないよね」
「ソレは可愛いからいいんだろ?」
「天元だってかっこいいのに…」
私が口を滑らせたのを
揶揄うでもなく、
「…睦が俺を好きだって事は
充分わかってるから、
飴なんかにしなくてもいいだろ?
ホンモノがちゃんとそばに居るんだ」
なんなら切なげに天元は告げる。
私はそれがちょっぴり嬉しくて、
腕を組んで歩く天元のその肘の隙間に
自分の指先をそっと忍ばせた。
「……」
彼が無言でそれをジッと見下ろすから
「…はしたない?」
少し不安を吐き出すと
「ぜーんぜん。
周りがどう見ようが俺には関係ねぇもん。
お前がしたいようにするならそれでいい」
ぷいとそっぽを向いてしまう。
…珍しく、照れてるのかな?