第30章 秋の思い出
え?と目を見張り、
すぐにニコっと笑って
「だって、本当に感謝してるんだもん」
素直に気持ちを口にしてくれる。
睦を喜ばすためなら
何でもしてやる覚悟だから、
こんなものはどうってことはない。
瑣末な事だ。
それでも感謝してくれるっていうのなら…
「感謝の意は、口づけひとつでいいぞ?」
その方が、俺は嬉しい。
「またそんなこと…」
呆れた睦は大きなため息をついた。
「呆れるとこじゃねぇだろ。
お前が好きって事だろうが」
「はいはい」
「そんなこと言ってなぁお前、
俺がこうじゃなくなったら淋しいぞー?」
「…うん。そうだと思う…」
「…え?そうなの?」
まさかの返答。
それに驚いていると
更に驚くべきことに、
俺の頬に素早く口づけた。
まさかが続くと
この俺でも動けなくなるものだ。
本当に口づけるとは…
しかも人通りはないとはいえ屋外でだ。
「……」
無言で見下ろしていると
「……」
ほんの一瞬チラリと見上げて、
「……淋しくなるのはイヤなので」
ささっと顔を背けてしまう。
素直なくせに
どこか素直になり切れない所が
またほっとけなくて可愛いんだなぁ…
「睦には、
これからいい事いっぱいあるからな。
俺が絶対ぇそうしてやるから」
知らない事が他の人間よりも多い。
普通に体験できることもしていない。
そのくせ、経験しなくてもいい
つらいことばかり味わってるんだ。
今まで出来なかったたくさんのこと、
俺がしてやるから。
「何度も言ってもらったからわかってるよ。
ありがとう…」
にっこりと笑う睦は
ひどく美しくて、
自惚れや自意識過剰と言われるかもしれないが
俺がこうしてこいつを愛しているせいで
睦がこんなにも美しく笑えるのだとしたら
俺はここにいて良かったと心から思う。
「…帰りたくなって来た…」
ぼそりと呟く俺の言葉を
耳聡く聴き取って
ものすごく悲しそうに俺を見上げた。
おやおや…
「今すぐ思い切り抱きしめたいって言ってんの」
帰りたいワケを言った途端に
ぎゅっと腕にしがみつき
「これで我慢して。
今帰るなんて、私悲しすぎて死んじゃいそう」
泣きそうな声で言った。