第30章 秋の思い出
紙紐の蝶結びを解き包みを開くと
思った通りと言うべきか
きれいな浴衣。
秋を先取りしたような
こっくりとした深い紫色の桔梗柄。
濃紺の絞りの帯と一緒に。
「何でもない日に、
こんな甘やかししたらだめなのに」
「お前が喜ぶ事なら俺は何でもすんだよ」
どうしよ、ちょっと浮かれてしまう。
「…天元の好み?」
「睦と言えば花だろ?」
「…花は好きだけど」
「何色でも似合うしな」
「どこ連れてってくれるの?」
「鎮守さんの祭り」
「嬉しい…!」
「それはよかった。
睦が喜ぶなら俺も嬉しい」
「今日寄ったお店にいたお客さんが話してたの。
お祭りがあって、夜店がたくさん並ぶんだって」
私がそう話すと、
「行きてぇと思ったか?」
天元は少し首を傾げた。
「うん。思った」
「じゃなんで『連れてって』って可愛く言わねぇ」
つまらなそうに言う天元に
私は言葉を詰まらせた。
…話しにくいなぁ。
だって、
なんて言われるか、わかっているんだ。
「言ったら…いけないような気がしたから…」
「俺に言っちゃ悪ィ事なんかねぇって
何度言えばわかるんだよ」
そうだよね。
そう言うと思った…。
「うん…わかってるよ。でも、
いけないような気がしたんだよ」
「そうだろうな…。でもよく見ろよ、
今睦の目の前にいるのは俺だぞ?」
「…そう、だね」
「そうだねじゃねぇよ。
この俺をどこぞの誰かと一緒にすんなよ」
「してない!それはしてない絶対に!」
「そうだといいがな…」
じとっとした薄目をこちらに向けて来て…
「いやだ、ほんとだよ!」
「…はい、じゃ証拠」
ムスっとした顔で
長い両腕を開いてみせる。
この人の信頼を得るために
私は一も二もなくその胸に飛び込んでいく。
そうして
ぎゅうぅっと力いっぱい背中を抱きしめた。
なんの反応も見せない天元に、
不安を感じた私は
ゆっくりと目線を上げる…
すると無表情で私を見下ろす天元と出会い…
「…俺のことわかってんの?」
「わかってる…ごめんなさい。
これからは何でもちゃんと話すから…」
「そういうの、
俺が平気だと思ったら大間違いだからな」