第30章 秋の思い出
夕方の風が涼しくなってきた今日この頃。
いつもと同じように買い物に出ていた私は
あるお店で
お客さん同士が話していたのを
聞いてしまったのだ。
それは、
喜びと残念がいっぺんにやって来たような
だから、誰にも言わずに
心に仕舞っておこうと決めた。
でも……。
「ただいま帰りました」
荷物を整理してから
天元の部屋に帰って報告に行った。
「あぁおかえり。お疲れさん」
にこっと笑いながら、
天元は大きな手でおいでおいでと私を呼んだ。
なので私はそれに従い、
襖を閉めてから天元の前にちょこっと座る。
すると私の大好きなその手が
ぽんっと頭に乗せられて
なでなでと大きく撫でてくれる。
なんだろうコレは。
…労い?
たまにすっごく
子ども扱いされてるような気がするんだけど…
大丈夫かな?
だけどこうされるのが大好きだから、
私はされるがままだ。
「なぁに?」
「…いや、こうされんの、
好きそうだなぁと思って」
「…うん。だいすき、だけど…
用事はなぁに?」
「あぁ、」
本当に忘れていたかのように、
ぽんっと手を打って
自分の横に置いてあった白い包みを
そそっと私の前へと置いた。
「どうぞ」
にこにこと優しい笑みを浮かべて
天元は穏やかに言った。
それはきれいな和紙の包み。
紙紐で結ばれたそれは…
中身を見なくても何だか予想がついてしまう。
…
私がじっと見つめていると
「…今日なぁ」
「え…?」
急に話し出した天元に
私は顔を上げた。
「お前と行きたいとこがあるんだが…」
「行きたい所?」
私の胸が期待に膨らむ。
どきどきと、心臓が高鳴っていく。
「行ってくれるか?」
「…どこ…?」
「…お前、知ってるな?」
くくくと喉を鳴らして笑い、
しょうがねぇなとまた頭を撫でた。
私、そんなに顔に出るのかなぁ。
でももしかして、と思うと、
もう嬉しくてたまらないんだ。
「知ってんなら話は早ぇ」
よしよしと
私の頬に手を添えて
「ソレ着て行こう?」
白い包みを顎で指した。
「これなぁに?」
「開けてみれば?」