第29章 ゆめのはじまり
ぶるりとひとつ、大きく身震いをした天元が
そのまま私の奥で、愛を吐き出したのを感じた。
どくんと脈打つ度にその振動が伝わってきて
私の躰が跳ね上がる。
それも落ち着いた頃、
彼は力無く私の隣に横たわった。
「…離れたくねぇな」
涙の伝う私の目尻に唇を押し付けながら
簡単に本音を洩らす。
…おんなじ気持ちで良かった。
朦朧とする意識の中、
私はそんな事を思うのだった。
出て行く彼を見送って…。
シンとした部屋の中、
ひとり褥(しとね)に横たわり
何を思うでもなく天井を見上げる。
こんな静かな時間、いつ以来だろう。
ひとりって、こんなに悲しかったかな。
ひとりって、こんなに苦しかったかな。
今まで私、ひとりの夜を
どうやって超えてきたんだろう…。
もっと楽しいものだったような気がする。
何でもできる時間が、
とても輝いて見えていたというのに…
今は全然、思い出せない。
自分があの人と出逢ったことで
こうなってしまったんだとしたら、
それはひどく、つまらないもののように思えたんだ。
あぁ…
なんて勿体無いことをしているんだろう…。
「睦」
……
「睦」
「え?」
「ただいま」
「…天元?」
私はつい体を起こして、
襖を開けてそこに立つ人を見つめてしまった。
「何てカオしてんだ」
くすくすと楽しそうに笑う天元。
「…今晩は帰れないって、」
「あぁ、でも…
睦をひとりにはしておけねぇだろ?」
今朝、私が
即答出来なかったから。
それで気にして、
仕事を切り上げてきてくれたのだろうか。
だとしたらとても申し訳ない…
「ごめんなさい」
「何で謝るんだ。
俺がそうしたくてしたんだよ」
いつもの優しい声。
申し訳ないのに
とっても嬉しくて、
私はすぐに、
彼に向かって両腕を伸ばした。
にこっと笑い襖を閉めると天元はすぐに、
いつもみたいに抱きしめてくれる。
でもどうしてだろう。
こんなに強く抱きしめられているのに。
よく知るこのぬくもりに包まれているというのに
私は胸の震えを止められない。
自分が揺らいでいるのがわかる。
「睦?」