第28章 恋模様
「渋みがあって、でも甘みの方が強くて
すごく香りがいいんですよ。
まぁるい味がすると、
気持ちも優しくなるでしょう?」
…あ、おかしなこと言っちゃったかな…
そう思って顔を上げると
全然想像していなかった微笑みがそこにあった。
私はびっくりして
つい目を逸らしてしまった。
なんで…
どうしてあんな顔してるの…⁉︎
困った困った!
私の偶像が…アイドルが、
どんどん現実化していってしまう。
「お待たせしました」
出来るだけ離れた所から
めいっぱい腕を伸ばして
お茶のコップを宇髄さんの前に
差し出した。
未だ床に座り込んだままの宇髄さんは
そんな私を少しの間、眺めてから
「…サンキュ」
短く言った。
コップを受け取る時に
宇髄さんの手が私の手に触れないように
わざとそれ以上ないくらい下の方を持った…
自意識過剰?
考えすぎ⁇
でもどうしても硬くなってしまうんだ。
初恋でもあるまいし。
気持ち悪。
触れる事なく、上手にコップを受け取ってくれて、
本当に喉が渇いていたのか
宇髄さんはお茶を一気に喉に流し込んだ。
それを目にしたら
自分もものすごく飲みたくなって
一緒に持って来た自分用のお茶を
ごくごくと飲み干してしまった。
あぁ、今日のお茶は一段と美味しい…。
もう1杯飲もうと思い、
「おかわりいかがですか?」
宇髄さんにも声をかけてみる。
するとコップを差し出して
「おぉ、もらう」
にこっと笑った。
…にこっ
は、余計です。
なぜなら胸が騒ぐから…。
コップを受け取った私は
顔を見られないように
そそくさとキッチンへと戻った。
「あ、おいお前さぁ…
大事なんだろ写真。
こんなとこに積み上げていいのかよ」
ローチェストに重ねて置いてあった写真を
宇髄さんは手に取って
ぱらぱらと見ている。
「あ!見ないで下さいよ。
それこれから日にち別に分けて
ポケットにしまうんです!
バラバラにしちゃヤですよ?」
私の言葉なんか聞こえていない様子で
次々に写真をめくっていく。
私が好きに撮った写真だから
作品用でもないし
あんまり人に見せるようなものじゃないんだけどな…