第28章 恋模様
空いてしまった心の穴を埋めるのは、
ひたすら、好きな事に没頭するのが1番だ。
ただそれに限る。
そこで私が始めるのは、
暗室に籠る事。
写真の現像とプリント。
現像はなんて事ないけれど、
『紙焼き』をするのがだいすきだ。
白黒の写真ばかり撮る私は
濃いのや薄いの、自分好みに焼き付けられて
私はすき。
私は溜まりに溜まったフィルムたちを
いっぺんに現像した。
そして心ゆくまで、プリントをした。
現像液につけて、
絵が浮かび上がってくる瞬間もすき。
私の目をおかしくする赤いライト。
カン、っていう、器具のぶつかる音。
全てが、大好き…
ピンポーン、
という音がしたような気がする。
私は顔を上げて、…
あれ?
どのくらいこうしてた?
——ピンポーン
という音は、
紛う事なく…誰かが訪ねて来たのを知らせる合図。
私は真っ暗な部屋から
外に出て、その眩しさに、目を細めた…
あいつはまた逃げる。
行動を起こす度に、
近づいたと思うのに
あいつはその倍、逃げて行くんだ。
なんかあるごとに詰めた筈の距離が
見事に離されて行く。
…おかしくね?
そりゃこの間は無遠慮に迫りましたよ。
だってあいつも隙だらけだったから。
スケブを閉じさせる為とはいえ、
図らずも後ろから抱きしめる形になって、
少し見えたその頬が紅く染まって
しかも嬉しそうにしていたら
そりゃ行けると思うだろう。
それなのに、現実じゃねぇとかアイドル降格とか
ワケのわからねぇ事ばっか言いやがる。
しかも俺の誘惑からまんまと抜け出しやがって。
更にだ。
2日も大学を休んでいる。
写真科のヤツで、
睦とつるんでるのを
見たことのある女に聞いたから
間違いはない。
前の時は、
温室に来なくなった。
今回はもっと悪い。
落とし物をしたというのを言い訳に
その女に住所を聞き出しといてよかった。
…落とし物なんてねぇけども。
ものすごい勢いで怪しまれたから
俺と睦が知り合いだと言う事を、
たまたま通りかかった甘露寺に証明させて
やっとこさ聞き出す事に成功した。