第28章 恋模様
『お礼』とやらを
キッチンで準備している宇髄さんに許可を得て
本棚に所狭しと並べられた美術に関する
色んな本を手に取ってみる。
私でも知っている絵画の画集や
美術の歴史に関する難しそうな本、
色の組み合わせの本…
どの本も私知らない世界が
めいっぱい詰まっていた。
手に取った全ての本に興味を引かれ
パラパラとめくっては次の本、と見て行くと、
…その本棚の隅に縦型のスケッチブックが
何冊かしまってあるのを見つけてしまった。
私はキッチンの方を振り返り、
見てもいいかな?と視線を送る。
カウンターを挟んだ向こう側で
何やら一生懸命になっている背中から目を離さず
スススっと。
スケッチブックに手を伸ばした…
だって、このスケッチブックたちは
新しいのじゃない。
使い込んであるのが表紙を見ただけでもわかる。
見てみたい。
あの、文化祭の時の絵のように、
素敵なものが見られるに違いない。
そう思って、
私はモスグリーンの表紙を開いてしまった。
「おい見ろよ、
俺様のこの美しいケーキのならべ、かた……」
…宇髄さんが何か言ったような気がする。
「⁉︎」
ガタッと乱暴に、何かをテーブルの上に置き
背後から両手を伸ばすと、
私の手ごと挟んで
スケッチブックを閉じさせた。
その勢いは結構なもので、
私の前髪がふわりと浮いたほど。
「……な、にを見てくれてんだお前ぇ」
「……」
私は頭が真っ白だった。
宇髄さんが何を言っているんだか…
「おい睦…」
私の手は宇髄さんに挟まれたまま。
背後から首を伸ばして私の様子を窺うと
何かに感づいたのか
急に私の手をぎゅっと握って来た。
「…っ」
そのせいで
スケッチブックはバサっと音を立てて…
さっき私が見ていたページが
ちょうど開いて落ちた。
「…もう、そのページばっかり開きやがる。
他にもいっぱい描いたってのに、
いっつも1番はそのページだ…」
切なそうな声が耳元で響く。
手を握ったまま、
その両腕がぎゅっと私の身体を抱きしめた。
力強い感覚にハッとして
身を翻そうとするけれどぴくりとも動かせない。
「…宇髄さん…」
みっともないくらいに震えた声で名前を呼ぶと
返事もせずにただ腕に力を込めた。