第28章 恋模様
「んー…!ごめんなさい!
聞かなかった事にして?」
私から少しだけ距離をとって
甘露寺さんはまた両手を合わせた。
「どうしてですか…?」
「あれは偶然だったの。
私の勝手だったのよ」
「どういう事ですか?」
「私からは何も言えないの…
ごめんなさい」
本当に困っているようだった。
それ以上困らせるのも違うような気がして
私はもう何を訊くのもやめた。
「そう、ですか…」
でも、ひとつだけ収穫があった。
この子は、宇髄さんに恋していない。
さっき私に、
いつから付き合っているのかと訊いた時、
彼女は本当に楽しそうだった。
私たちの事を探っているふうではなかったからだ。
「睦ちゃんは、これからどうするの?」
「今日はもう帰ります」
「寄り道もせずに?」
「はい」
「まだ早いのに…」
「うちでしたい事があるので…」
最近は写真を撮るばかりで、
現像が追いついていない。
だからそれをどうにかしたいのだ。
それなのにこの子は、
「わかった!この大学の人じゃない人と
お付き合いしてるのね?これからデート?」
ひとりはしゃぎ出す。
…単に、恋バナが好きな女の子らしい。
「デートに行くような格好に見えますか?」
素直で可愛いなぁ。
「えー?そういうのを気にしなくてもいいくらい
気の置けない人なのよ!」
「ふふ、違います。
課題も出てますし、直帰ですよ」
「そうなの?」
「はい。甘露寺さんは?」
話の矛先が自分を向いて
少し嬉しそうにした甘露寺さんは
「私はね、彼氏がお迎えに来てくれるのを
待ってるの!きゃっ」
きゅっと目を閉じて頬を染める甘露寺さんは
超絶可愛い。間違いなく、可愛い。
甘露寺さんだから許される反応。
「彼氏さんがいらっしゃるんですね」
「うん!かっこいいのよ?」
両手で頬を包み、にこっと笑う甘露寺さんは
とっても幸せそうで、
あぁ、恋って素晴らしいんだなぁと
ぼんやり思った。
まぁ、私には無縁かな?
だいたい付き合って、何をするんだろ。
高校生の時に、
付き合った人がいなかったわけではなかった。
それなりに楽しかったし幸せだったと思う。
でもその人とは大学が分かれた事で
お別れをした。
お互いに、そこまでして
付き合い続ける相手ではなかったのだ。