第28章 恋模様
そうやって少しずつ掻き集めた小さなカケラを
宝物みたいに抱えて
俺の気持ちは育っていった。
あいつはきっと、
気づきもしねぇだろう。
大切すぎて、無くすのが怖くて、
先には進まねぇ。
もう少し様子を見て、
もう少しだけ、確信が持てるまで。
あいつにも、俺への気持ちがあるって
思えるようになるまで。
「あ!スケッチブックの君!」
講義を終えた私の背中に、
大きな声がかかった。
振り返ると、この間の
『甘露寺』さんがいた。
もう、1週間も前の事。
「この間はありがとう!あのハニートースト
とーってもおいしかったわぁ!」
ものすごくフランクな人だ…
私の手を握りしめて、ブンブンと揺する。
がくがくと全身が揺さぶられて
「あれは…宇髄さんにお礼して、ください」
クラクラする頭で私は何とか答えた。
「あ、そうだ!あの時は
何だかお邪魔しちゃったみたいで
ごめんなさい…」
急にしおらしくなった彼女は
ぺこりと頭を下げる。
本当に素直でいい子。
「お邪魔だなんてとんでもない。
こちらこそごめんなさい。
…1年生、ですよね?」
「はい!あなたは…」
「2年生です」
「そっかぁ!私は甘露寺蜜璃と言います!」
年齢に関係なく、
分け隔てなく接することが出来る人なのね。
ハキハキ喋って気持ちいい。
…より、あの人にお似合いだ。
「…櫻井睦です」
「睦ちゃんね!」
おぉう…
ちゃん付けで呼ばれたのなんか
この大学で初めてだ。
「で?で?宇髄さんとはいつから?」
甘露寺さんは
私の耳元に寄って内緒話…
「……いつから、と、申されますと…?」
「またまたぁ!
お付き合いを始めてからに決まってるじゃない!」
「………始まってませんが」
「ひぇっ⁉︎」
甘露寺さんは飛び上がらんばかりに驚いて
両手で自分の口を押さえた。
どうして私と宇髄さんが付き合っていると
勘違いしたのだろう。
確かにあの時、カフェで一緒にいたけれど。
それだけで付き合っていると思い込むには
弱い気がする。
…そもそも、
「スケッチブックの君ってなんなんですか?」