第28章 恋模様
こいつが、この写真を撮ったのか…
品定めではないが、
まじまじと眺めてしまった俺に
「…あの…それ…」
歯切れ悪く、遠回しに写真は私のですと言った。
もっとはっきり喋ればいい。
顔立ちは悪くない。
くっきりした二重瞼。
きれいに、
しかも嫌味にならない程度の化粧もしているし
声だって女らしく可愛らしい。
ただ自信が足りない。
そんな気がした。
……どうでもよくね?
そんな事を、その時は思ったが、
今考えれば俺はもう睦の事が
気になっていたんだ。
睦はいつも1人でいた。
人が嫌いな感じはしなかったが、
自ら輪の中に入って行くタイプではないようだ。
同じ科の人間と話をしている時に
ふと見せた柔らかい笑顔に、
…柄にもなくどきっとしたのを覚えてる。
まともに話をした事もねぇ。
名前すら知らねぇヤツに、
こんなふうになんの、絶対ぇおかしいだろ。
そう思うのに、
この想いは止まらねぇ。
でも話をする機会なんてあるわけがない。
だって学科も違えば、学年も違う。
一緒になる授業もない。
しかもあいつは友達が極端に少ない。
特定の人間との付き合いは皆無。
顔の広い俺ですら八方塞がりだった。
それを、ある昼休み。
一転するような出来事があった。
俺はやっぱ、何か持ってるんだと思う。
でなきゃこんなチャンスを引き寄せられるだろうか。
俺がいつも1人で過ごす、
温室前のベンチ。
賑やかいのが好きな俺にも、
1人になりたい時間もある。
そこに座って、
好きな画集を眺めていた俺の耳に
バシャッ
という音が届いた。
その独特な、重たい響き。
カメラ?
そう思い、立ち上がった俺の目に飛び込んできたのは
まさかのあの写真の女だった。
あまりの事に、全身が震えた。
やべぇ…
見つけた、
そう思った。
突破口を、…
未来に続く道を。
昼休みにここに居れば、
こいつに近づくきっかけができる。
そう思った俺は
1日たりとも休む事なく
毎日アホのようにそこに通った。
初めて声をかけた時は
この俺がど緊張して、
それをひた隠しにして…
何でもないフリをして
名前と学科を訊いた。
カメラを持ってる時点で、
写真学科に決まってる。
そんな事にも気付かないほど
俺はテンパってたんだ…