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【鬼滅の刃】予定調和【宇髄天元】

第28章 恋模様





次の日から、
私は温室には足を運ばなくなった。
あの場所で撮りたいものが無くなった。

…別に何があったわけでもないのに。
なんであの人を避けるような事をしているのか。
しかも勝手にだ。
別に、なんの関係もないのに。

間違ってると自分でも思う。
だけど、顔を見たくない。
何となく怖いんだ。

「睦…!」

ふいに肩に手を置かれ、
私はびくっと竦み上がった。
その過剰反応に相手も驚いて、
肩からその手が浮いた。

振り向いた先に、
今1番会いたくない人がいて…。

「なん、だよ。そんなびっくりさせたかよ」

これでもかと見開かれた目。

「あ、…はい。ごめんなさい」

「謝る事ねぇけど…。そうだ、お前今日…」

「…あの、ごめんなさい。
次の授業の支度があって急いでるんです。
また今度にしてもらえませんか?」

「……あ、ぁ」

面食らったような顔。

なんだろ、何でこんな時に限って
声なんかかけてくるの?

別に言い訳をしたわけじゃない。
本当に忙しかったんだ。
次の授業は実習ではなく講義だ。

有名な写真家を講師に迎えての講義。
聞きたい事がたくさんある。
そんなチャンスはなかなか無い。
プロとして活躍する人の
貴重な話が聞ける素晴らしい機会だ。
無駄には出来ない。

「失礼します」

私は会釈をしてその場を去った。













あいつは何で
昨日、あんな風にして突然帰ったのか。

考えてわかることじゃない。
だが考えずにいられない。

俺があいつに気がついたのは去年の秋のこと。
紅い葉っぱとともに舞ってきた、
その写真を見た時だった。

小さな長方形の中に
完璧とも言うべき世界が築き上げられていた。
光の具合、コントラスト、
構図からメッセージ性まで
何も聞かなくても全て伝わってくる1枚。

俺ははっきり言って嫉妬した。
そのセンスに。
自分にその才能がない事に愕然とする程。

俺は、別分野だ。
そんなふうに思う事自体おかしいとわかっている。
でも、それでもだ。

その写真を追ってきたのは、
小柄な女だった。
強い風に長い髪を遊ばせて
俺の前に立ったその女は
少し驚いたような顔をしてから
俺の手の中の写真に目を止めた。


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