第28章 恋模様
…まさかと思うけど
彼女ひとりで食べるわけでは、ないよね…
「あぁっ!本当!ごめんなさいね、
もう食べなくちゃ、」
可愛らしい仕草で両手を合わせて
少しだけ背を丸め、私を上目遣いで見上げた。
いちいち仕草が可愛いなぁ。
さすが宇髄さんの知り合いともなれば、
こんなに華やかで
可愛い女の子も数多くいることだろう。
彼女はそそくさとソファに座り、
「いただきまぁす!」
と、それらを平らげて行く様を
私は呆然と見ていた。
…よくいる、胃下垂の人なのかしら。
「相変わらずよく食うなぁ。
気持ちいいくらいだな」
無邪気にニコニコ笑う宇髄さん。
仲が良さそうだな。
どういう関係なんだろう。
スタイルもいいし、ファッションセンスもよくて
宇髄さんはこういう子が好きなのかなぁ。
…なんだろうな。
この場に居たくない雰囲気だ。
私は女の子のテーブルに一歩近いて、
自分の持っていたトレイを静かに置いた。
「…?」
もりもりとスイーツを頬張っていた
『甘露寺』サンは、
不思議そうに私を見上げた。
口の中はいっぱいで、何も言えないようだ。
…それは好都合。
「よかったら、これもどうぞ」
「え″っ?」
すでにお口が空っぽの彼女は、
びっくりしたのだろう、割と潰れた声を上げる。
「…おい睦。どうぞじゃねぇだろ。
誰が買ってやったと思ってる」
背後から、腑に落ちないと宇髄さんが言っていた。
でも、
「ごめんなさい。やっぱり私、
やりたい事あるので帰ります。
ほんとにごめんなさい。ありがとうございました」
宇髄さんの方を振り返り、
深く頭を下げて言う。
…頭を下げたのは、
まともに顔を見られたくなかったからだ。
「おい!」
宇髄さんが
私を引き止めようと立ち上がったのがわかって
慌てて駆け出した。
こんな時こそ、
持ち前の鋭さで察してもらいたいものだ。
気持ちが整わないの。
本当にちょっとした事だよ。
でも今は誰とも話したくない。
私は大切なカメラバッグを胸に抱えて
家までの道を踏みしめた。