第28章 恋模様
人目を忍んで、
…というわけでもないだろうけど、
テラス席に出た宇髄さんを追って
私は大変申し訳なく思っていた。
きっちりおごってもらったからだ。
私の手には、ものすごく分厚いハニートースト。
しかもバニラアイス添え。
お腹が鳴りそうだ。
美味しそうなものを目の当たりにして
急激に空腹を思い出した。
どかっと1人掛けのソファに腰を下ろし
はぁあっと深いため息をついた。
なんとなく私に向けられているような気がして
トレイを手にしたまま
その横に立ち尽くしてしまう。
「…どした?座って食えよ」
「……怒ってますか?」
堪えきれずに私は不安を吐露した。
すると、背もたれに深く沈めていた体を起こし
「あー…悪ィ。疲れただけだ」
「…私のせいで?」
「違う!」
大声で否定されて驚いた私を見上げ、
もう一回ため息をつきながら
宇髄さんは額に手を充てる。
そして、
「…ありがたかったよ。
睦がいてくれたからちゃんと描けた」
弱ったように眉を下げた。
「…役立たず、なのに?」
どうしても心残りだ。
この人の役に立てなかったことが。
「あんなんほんの冗談じゃねぇか」
そうだろう。
役立たずと言った時の彼は笑っていたから。
でも、
私の胸に突き刺さったんだ。
ショックだった。
だってこの人の絵の素晴らしさを
私は知っているから。
「おい、…おい泣いてねぇだろうな。
大丈夫だな?」
自己嫌悪で俯いた私を
少し焦ったように覗き込み
泣いていない事にホッとした宇髄さんは
ホットコーヒーをひと口飲んだ。
「……初めての文化祭の時に、」
「あぁ?」
カップから口を離し
宇髄さんは
突然話し始めた私を見上げる。
「デザイン科の展示を見ました。
ビッグウェーブの向こうに
朝日が昇ってくる油絵に釘づけになりました」
ネームプレートには宇髄天元て書いてあった。
随分経ってから、
構内で『宇髄』と仲間から呼ばれている
彼を見つけた。
やっぱり元気に笑っていた彼を見て、
あぁ、あの絵を描いたのは
こんな人なんだなぁ、って…
思ったのを覚えてる。
「あんな絵を描ける人の、力になりたかったな…」
私は間違いなくいじけているのだけど、
宇髄さんには落ち込んでいるように
見えたらしかった。
「あのなぁ…俺ちゃんと描けたって言ったろ?」